天皇制の危機

皇室のゆくえ

一方、日本の保守派は、天皇大権が崩壊し、日本は無政府状態に陥るのではないかとの恐怖に駆られていた。

日本のマグナ・カルタの２日後、１０月６日、東京帝国大学教授でアメリカ憲法の権威、高木八尺（たかぎやさか）がアチソンとエマーソンに会い、「日本の指導者たちは、天皇および皇室についての自由な論議を許したあの指令以来、皇室の将来について深い憂慮の念を抱き始めている」と訴えた。

高木は、「８月１５日の降伏詔勅（玉音放送）の中に天皇陛下が退位したいという意志を明白にすべきかどうかで、８月１４日の御前会議で審議されたが、反対する閣僚が多く、明文化されなかった。今でも天皇陛下が退位されたいと望んでおられることは事実である」と言った。

近衛文麿（このえふみまろ）や木戸幸一（きどこういち）らの信任厚い高木は、「日本の民主主義を自発的に発展させる方が、アメリカに強制された改革よりもずっと好ましい」と強調したが、「近衛公は公職から引退されるべきであり、過去の罪に対して責任を取られるべきです」と断言した。

近衛文麿は、１０月２４日、記者会見で、天皇陛下が「御退位遊ばさるることは国際信義の上からも軽々しく実行できるものではない」と言った。これは、近衛が「真実」を言えないので、「嘘」を吐いた。

憲兵隊廃止

だが、マッカーサーは、旧体制擁護を少しでも仄（ほの）めかす日本人の真意を疑った。日本政府（幣原内閣）が警察力の増強を求めた時も、マッカーサーは即座にその要求を拒否した。

増強どころか、マッカーサーは、悪名高い「憲兵隊」の廃止を計画し、１１月４日、日本政府に憲兵隊幹部全員の名前、肩書き、現在の任地などを報告せよ、と命じた。

日本政府は速やかに従った。マッカーサーはこの報告書に基づいて、翌１９４６年１月１６日、憲兵隊を廃止した。

自由活発に天皇について議論せよ

エマーソンは同２月、バーンズ国務長官に報告する。

「天皇についての自由な論議を許す、という１項は、日本の支配階級を戦慄さ せました。彼等はこの自由は国家危機を引き起こし、無法状態を生み出し、政 治的混乱を生む、としきりに我々を説得しようとしておりました。この指令に より、日本人は天皇制（Emperor System）に対する疑問を抱くようになった かもしれませんが、国家の危機といった憂慮すべき事態は何も起こりませんで した」

宮内省は、「新しい天皇」の広報に全力を挙げ、学校、地方自治体、外国の大使館、領事館にある天皇陛下の写真は新しいものと替えても宜しい、と通達した。

天皇の服装は、軍服ではなく、平服に変わっていた。