権力の頂点
権力を握った人は裏切りを恐れます。高い地位にある人ほど、その傾向が強いと言えるでしょう。しかし今、権力という考え方も、その力の及ぶ範囲も、大きな変化の中にあるように思います。
権力構造といえば階層的なピラミッドを思い起こす人が多いのではないでしょうか。権力や影響力を行使するには、出世の階段を一歩一歩、上っていかなくてはなりませんでした。その道は過酷です。しかし、ピラミッドの上部になればなるほど、見通しがよく、力を自由に発揮することができます。権力の頂点はピラミッドの頂点です。
しかし、階層的な権力構造とは違った力関係が生まれております。それはネットワークによる力です。ピラミッドのような形はしておりませんが、ネットワークの中に入ることで、力がなかった人も、力を持つことができるというものです。
さて、ネットワークは新たな権力を形成しうるのでしょうか。
ホワイトハウスの権力構造
アメリカを例に考えてみたいと思うのですが、まず言えることは、この米国社会がどれだけトップダウンで決まっていくか、ということです。ホワイトハウスに関していえば、ネットワークのような権力構造はありません。
大統領が「俺はこれをやりたい」と言い、その内容を長官たち、いわゆる日本で言う大臣たちに向かって「これをやりなさい」と命令します。そうすると、今度は大臣が官僚に向かって「これをやりなさい」と命令するのです。アメリカはもちろん民主主義社会ですが、一度選挙で選ばれると、もう絶対的な権力を振りかざして改革をどんどんと行います。そういう社会なのです。ですから、もちろんSNSに代表されるようなネットワークはたくさんありますが、ピラミッドのような権力構造には及びません。
日本ではこのところ「安倍一強」などと言われておりますが、私から見ると「安倍総理は何でもっと厳しくやらないのだ」、「なぜ自分の我を通さないのだ」という感じです。せめてアメリカの10分の1の権力でも良いので安倍総理が行使したら、色々な改革ができたはずだと私は思います。日本は話し合いが多すぎるのです。
トランプ政権
アメリカでは大統領が変わると全てがダーッと変わります。大臣も官僚たちも一変します。そのような中で、人脈や学閥なども重視しますが、実力そのものも相当程度に評価しているのがトランプさんです。彼の周りはもうほとんどが有名校や有名士官学校を出たエリートたちです。政治的にも、軍事的にもトップの人たちが集まっております。
トランプさん自身はまた、商売の世界で大成功を収めておりますから、まさに才能の人でもあります。自分の人脈を、自分のためにフルで使うことにも秀でております。
人材が豊富ですから、自分の方針と違うことを言ってきたり、反対したりする人は簡単にクビにします。そしてまた新しい人材を見つけて配置するのです。そのあり様は日本社会から見ると凄まじいほどです。裏切られる前に、クビにするわけですから。しかしこれがアメリカでは普通なのです。
西鋭夫のフーヴァーレポート
人脈と政治力(2020年6月下旬号)- 3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。