新日本建設ノ教育方針

by 西 鋭夫 May 4th, 2016

軍国思想の排除


「新教育方針」は、終戦直後の日本政府の考えを凝縮している。

前田文相は、「今後ノ教育ハ益々国体ノ護持ニ努ムルト共ニ軍国的思想及施策ヲ払拭シ平和国家ノ建設ヲ目途トシテ謙虚反省只管国民ノ教養ヲ深メ科学的思考力ヲ養イ平和愛好ノ念ヲ篤クシ智徳ノ一般水準ヲ昂メテ世界ノ進運ニ貢献スルモノタラシメントシテイル」と前置きし、具体的な発想を明文化する。

「教科書ハ......根本的改訂ヲ断行シナケレバナラナイガ差当リ訂正削除スベキ部分ヲ指示シテ教授上遺憾ナキヲ期スルコトトナッタ」。

削除されるべき例として、国民初等科読本巻二の「兵隊ゴッコ」、巻四の「兄さんの入隊」、初等国語二の「潜水艦」、八の「南洋」、十一の「三勇士」等である。


前田文相の本心


前田は科学を讃美した。

「科学ハ単ナル功利的打算ヨリ出ズルモノデナク悠遠ノ真理探求ニ根ザス純正ナ科学的思考力ヤ科学常識ヲ基盤トスルモノタラシメントシテイル」


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「宗教」にも大きな期待をかけていた。道徳的な「新日本」は国民の宗教的な感受性を育成することで再建できるし、活発な宗教活動は「我国宗教ノ真面目ヲ」世界に示すことができると主張した。

前田文相の「新日本建設ノ教育方針」にはマッカーサーが喜ぶような言葉が鏤められてはいたが、前田の本心は、「今後ノ教育ハ益々国体ノ護持ニ努ムル」である。

前田は、絶望的になった国民が「日本帝国」の全てを拒否し、神聖な天皇大権さえも放棄してしまうのではないかと恐れたのだ。

彼は、民主主義的な言葉がマッカーサーの改革への熱意を鈍らせ、目前に迫った国家解体を最小限度に押し止め得ると思ったのだろう。


見透かされた意図


読みが甘かった。アメリカ国務省の調査分析課は前田文相の作品を分析した。

「日本の政策立案者たちが国体を護持するためには、戦闘的な国家主義続行は当然と考えているフシが見える。......日本の指導者たち自身の存在が巨大な障碍になりうるので、アメリカは用心しなければならない」

前田が軍国主義的な用語は削除すると明言していたにも拘らず、国務省の調査分析課は、「前田は、戦前のイデオロギーを述べるのに別の表現を使おうとしているだけで、日本の教育から軍国主義を効果的に抹殺するのには役立つまい」と一蹴した。



この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。