やらないと言っていた男
トランプさんはTPPから即時離脱しました。ところが、日本はその直前に、あれほどトランプさんが嫌がっていたTPPを強制採決してしまった。これは、私から見ると、非常に大きな読み違いでした。彼は選挙中から、TPPはやらない、やらないと延々と言っていたわけです。それなのに、ヒラリーさんが勝つと思っていた日本は、TPPを通してしまった。結果はどうか。トランプさんが勝って、TPPはもう没になった。そして、あたかも誰も責任がないような顔をしている。
私から見ると、日本の議会はトランプさんの頬っぺたをつねったという感じです。もうずっと、やらない、やらないと言っているのに、無理やり通した。相手が嫌がっているものを、こちらの都合で先に進めてしまったわけです。
しかも、その前提になっていたのは、ヒラリーさんが勝つだろうという見込みでした。ところが、それが外れた。外れただけではなく、今度はそのトランプさんと二国間で交渉しなければならない。ここが非常に厳しいところです。

交渉以前
TPPの見込みがなくなった以上、日本はアメリカとの二国間で貿易を進めることになります。しかし、その時点で日本はもう不利な立場に置かれています。精神的に不利、心理的に不利な立場です。アメリカは日本の弱みを握っていますから、これから強行に出てくる可能性があります。
別に安倍総理だけの話ではありません。日本にはそれぞれの会社がいっぱいあります。そこに対して、アメリカは「売らせてやらねえぞ」と言うことができる。アメリカの市場は大きいですから、そう言われたら日本は困るわけです。
そうすると、日本は交渉どころではなくなります。「どうか営業させてください」「売らせてください」という話になる。その見返りに、何か出しましょうかとなると、向こうから「これ出せ、これ出せ」と言われる。これは調和ではありません。交渉の余地があるという話でもない。言われるがままにうなずくしかないような、非常に不利な状況です。
心理戦
特に怖いのは、日本側がすでに「売らせてもらう側」の立場で考えてしまうことです。交渉というのは、本来はお互いに条件を出し合うものですが、相手の市場に依存しているという意識が強くなると、最初から腰が引ける。アメリカはそこをよく分かっています。自動車でも、農産物でも、金融でも、向こうは一つ一つ要求を出してくるでしょう。
そのたびに日本は、ここで断ったら市場を閉じられるのではないか、会社が困るのではないかと考える。そうなると、もう交渉の前から負けているわけです。TPPの問題は、ただ一つの協定がなくなったという話ではありません。
日本がトランプという相手を読み違えた。その読み違いが、二国間交渉の場面で日本を心理的に追い込んでいく。これが一番怖いところです。これからアメリカが何を出せと言ってくるのか。日本はどこまで応じるのか。そこをよく見ておかなければいけません。
西鋭夫のフーヴァーレポート
安倍トランプ会談の真相(2017年2月下旬号)-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

