小国ニッポンの教育

by 西 鋭夫 May 18th, 2023

注意書き

ではアメリカ以外の国ではどうでしょう。人材の厚さを感じるのは、スイスやシンガポール、ドイツ、そして香港、台湾でしょうか。日本も最近では優秀な方々がたくさん出ておりますが、日本の場合には、その人にいろいろと「注意書き」のような札がついています。

例えば「学業成績は優秀であるが、そもそも日本の大学教育のレベルは低い(すなわち、レベルの低い教育の中で優秀であるということ)」とか「起業家として有名だが、そもそも日本ではベンチャーを起こす起業家が少ない(すなわち、厳しい競争を経て成功しているわけではないということ)」等、そんな注意書きがついているのです。

 

学費は誰が払うか

そうした注意書きには「優秀だけど、気概が感じられない」というのもあるかもしれません。大学教育を例に話をしましょう。欧米の大学では学費は基本的に自己責任です。自分で払うか、奨学金を取るかです。奨学金が取れなかった場合は、休学してでも、一時的に辞めてでも、お金を自分でしっかりと稼ぎます。そして大学に戻ってくるのです。だからやる気が全く違うのです。お金を稼ぐことの大変さも同時に身にしみて経験しているのですから、1秒たりとも無駄にしたくない。そんな意気込みです。

日本の場合はお父さんとお母さんがお金を出してくれます。あるいはお金持ちのおじいちゃんかおばあちゃんでしょうか。いずれにせよ、自分で稼ぐわけではないので、大学に行きたい、行きたくないは関係ありません。お金は親たちが払ってくれるのです。

欧米の大学では休講にすると学生が怒ります。やりすぎるとクビでしょう。日本では休講にすると学生は大喜びです。

 

奨学金

もう1つ、日本の教育で欠けているのは本当の意味での奨学金です。奨学金の額の低さは大きな問題ですが、そもそも日本では奨学金の「返還」が必要なのです。それで返すことが出来ない学生が大勢いて、今、大問題になっております。

私は奨学金でしか勉強が続けられませんでした。私の『國破れてマッカーサー』のオリジナルはUnconditional Democracyという本でスタンフォードから出版されました。その本を書くうえで、私は当時、ワシントン大学院の院長の所に行き、「どこどこでこういう資料が公開されるらしいので、研究費を出してください」と直談判しました。そして、お金をもらえたら本当に行くのか、と聞かれたので、「はい、明日にでも行きます」と答えました。「いくらいるのだ」と言われたので、ちょっと山盛りにして「5,000ドルです」と言いました。

皆さん、1ドルが306円の時です。院長は「そんなにいるわけがないだろう。3,000ドルで行け」と言われました。返済の義務はありません。私はその奨学金を得て、研究が出来たのです。資料を必死に読み、本を書き上げました。日本では今も昔も、こんなこと絶対に実現しないことでしょう。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年3月下旬号「揺らぐ日本の人材育成」-5


この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。