GHQと元号

by 西 鋭夫 December 22nd, 2022

存続の危機

過去には日本から元号がなくなる可能性もありました。GHQによる日本占領期のことです。日本という国を根本から変えようとした際、元号が問題となったのです。しかし、GHQは元号を廃止しませんでした。なぜでしょうか。

それは、元号を廃止することは、すなわち日本神道の否定につながると考えられたからです。日本神道の否定は天皇家の否定と同じです。それは日本自体の否定とも言えるでしょう。戦争の勝者とはいえ、そんなことをアメリカがやってしまって果たして良いのだろうか。日本の宗教を否定し、アメリカ流のキリスト教を導入するのが本当に「民主的」なのかどうか。そんな議論がありました。

GHQはそこで、表面的には「われ関せず」を通しました。民政局のチャールズ・ケーディスらは「こんな封建的なものはやめさせろ!」と言ったのですが、本当にやってしまうと大問題になることを理解していたのでしょう。結果的には「勝手にしろ」とほっておかれました。

 

アメリカの論理

とはいえ、占領が始まった1945年、この年を契機とし、新しい日本を作ることを考えた方が良いのではないかという発想もあったことは確かです。アメリカは仏教と神道を潰そうとしましたから、それらと密接なつながりがある元号は目の上のたんこぶでした。

ただ、本当にそこまでやる必要があるのかどうか。そこまでやると、今度は昭和天皇の存在意義に関わってきます。昭和天皇を苦しめると退位される可能性もあったでしょう。そうすると、敗戦後の日本を誰が、どう統治するのか。日本社会における天皇の地位を完全に理解していたマッカーサーは、天皇については何も関わるなと、命令を出したのです。

 

共産党の主張

戦後の共産党は、天皇家を廃止し、普通の平民にせよとまで考えておりましたし、天皇を絞首刑にすべきだと主張しておりました。共産主義の立場からすれば、過去とのつながりを全て断ち切って、心機一転やり直したいという発想があったと思います。

しかし共産党の言い分と同じことをするマッカーサーではありません。GHQは天皇の存在を維持する、すなわち元号の維持を図りつつ、占領政策を進めることとなりました。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年1月上旬号「平成史と元号」-2


この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。