人々を感化する力

by 西 鋭夫 September 14th, 2022

世界帝国の秘密

アメリカは、世界第一位の軍事力を誇っております。しかしこの国は軍事力(ハードパワー)だけでなく、文化・価値観・外交政策などのソフトパワーにも秀でた国です。ハーヴァード大学のジョセフ・ナイ教授は、ハードパワーで「他国を無理やり従わせるのではなく」、ソフトパワーを用いて「相手を魅了し、味方にする」ことが重要だと主張しております。アメリカはこの力を徹底的に使ってきました。

歴史的な大帝国もそうです。ソフトパワーの重要性を完全に理解しておりました。ローマ帝国が戦争で強かったのは間違いありませんが、それを支えていたのは帝国の文明・文化の力です。ナポレオンのフランス帝国もそう、ドイツ帝国もそうです。イギリス帝国も例外ではありません。現在は完全にアメリカの世紀となっております。

日本は帝国を作りましたし、軍隊も強靭で強大でしたが、日本の優れた文明・文化を用いるという発想はありませんでした。人々を感化するのではなく、力で抑えつけたのです。抑えつけられた方は怖いので黙ってしまいます。

 

占領下の日本

GHQが行ったのはこれとは真逆のことでした。米国は占領中、武器はほとんど使わずに、日本人を裕福にしようとしました。すなわち「アメリカの言うことを聞くと、食べ物がたくさんありますよ。平和に暮らせますよ」と、そんなメッセージを日本社会に対して送ったのです。

占領期間はわずか7年です。しかしその間にアメリカは、膨大な量のソフト・パワーを日本へと注ぎ込みました。

私は当時小学校1年生で、新しい教科書を使いました。それまで「肉弾三勇士」「自決」「玉砕」を崇めていた国がコロッと変わって「民主主義」「言論の自由」「男女平等」「男女共学」など、日本人が考えたこともないようなものをワッと持ってきたのです。それを見て誰も悪い気はしませんでした。押し付けられているような感覚はありませんでした。

 

ハリウッドと共に

アメリカが優れていたことは、ハリウッドを使ったことです。ハリウッドと音楽、そしてメリケン粉にコッペパンといちごジャム。そういうものを使ってワサーっと日本社会に流していきました。

その力は計り知れません。軍事力の非ではないでしょう。はるかに強力です。武力に対して私たちはただ怯えますが、ソフト・パワーに対しては私たちから飛びつくのです。

当時の日本を想像して下さい。何もない時です。そんな時に夢のような音楽と甘いものがどんどんと入ってきた。米軍と仲良くするとたくさんもらえた。日本人は完全に洗脳されていきました。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2018年10月下旬号「米中文化戦争」-1

 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。