by 西 鋭夫 August 15th, 2022

敗戦直後の教育

私が小学生のとき、教科書はほとんど使われておりませんでした。先生のお話が中心です。先生方はたいていの場合、男性でして、アジア戦線を生き抜いて、無事に帰国した復員兵たちでした。

そんな彼らの頭の中で、戦争に対する思いは両極端に分かれます。一つは「ばかやろう」です。もう片方は「軍事物資があったら勝てたのに」というやつです。

先生がお話される内容で一番多いのは食べ物でした。軍隊における上下関係の話も多かったのを覚えています。上等兵が二等兵をいじめたという話です。今ではもちろん大問題になりますが、当時は躾と紙一重であったと思われます。厳しくすることが「強さ」につながると錯覚していた頃です。

間違っていたことも全部含め、現在、日本が戦った戦争に関する教育などほとんど行われていないのではないかと思います。その点、敗戦直後の教育には自由がありました。復員兵たちが生々しく戦争の現実を私たちに伝えてくれていました。

 

終わらぬ戦後

教育のことだけでなく、さらに大きな文脈でお話をしましょう。本当の歴史が教えられていないだけでなく、私たちはそもそもあの戦争に対する「禊」ができておりません。

「大東亜戦争」で310万人もの日本兵が亡くなっております。その大多数、約240万人が海外で命を落としました。ご遺族の方々はすでにご高齢です。亡くなっていらっしゃる方も大勢です。しかしながら、海外で命を落とした日本兵たちの遺骨収集作業はどれだけ進んでいるのでしょうか。政府は必死になって探してくれていますか。遺族の方々の戦後は、まだ続いているのです。

 

なぜこんなことになっているのか。米国ではあり得ない。米政府は遺体や骨が見つかるまで、全力で探し続けます。それが出来ない日本なのです。

 

戦争責任

私たちがあの戦争をきちんと分解して、解剖して、何があったのかを明らかにしようとしないことは、大問題です。

あの戦争は、国民の責任ではなく、当時のリーダーたちの責任でしょう。個人名をきちんと出して、誰がどういう決断をしたのか。そしてそれがどのルートで陛下の号令へとつながっていったのか。あるいは、そうした号令を本当に出されたのか。それらも分からないまま、ぐうたらぐうたらの状態です。

当時の大企業や財閥の責任も問われておりません。あの当時、10社もないぐらいの財閥が日本経済を完全に牛耳っておりました。戦争が起きるたびに潤っておりました。財閥と大本営が関係を持たないはずはないでしょう。その点についても十分に検証されておりません。

 

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
大東亜戦争(2018年8月下旬号)-2

 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。