日米大戦の深淵

by 西 鋭夫 July 4th, 2022

桂・ハリマン協定

日露戦争で獲得した満洲をめぐり、帝国日本に大きな転機がやってきます。アメリカの鉄道王エドワード・ヘンリー・ハリマンとユダヤ人銀行家のジェイコブ・シフが、満洲に鉄道を作ろうと話を持ちかけてきたのです。シフは日露戦争の際、高橋是清を助け、日本に莫大な資金提供を行なった人物です。

ハリマンとシフはタッグを組み、アメリカで鉄道会社を運営しておりました。その鉄道技術と経営のノウハウを新天地である満洲に展開しましょうと、提案してきたのです。

ハリマンとシフが提示した額は1億円です。当時の日本の国家予算の半分に相当する額です。これを全部、満洲での鉄道開発に投資すると言ったのです。桂太郎や伊藤博文、井上馨らは大喜びでこの話を受けました。こうして「桂・ハリマン協定」が生まれました。

小村寿太郎

しかし、悲劇はここから始まります。ポーツマスからフラフラになって帰ってきた小村外相が、その協定に激怒したのです。

 

小村は、満洲や遼東半島でどれほどの日本兵が戦死したかを滔々と語りました。そして、日本人の血が染み込んだ大地に、アメリカ資本が入るとは何事ぞ、と協定書を破棄してしまったのです。

それをニューヨークで聞いたハリマンは烈火のごとく激昂します。シフもさぞビックリしたことでしょう。日本外務省のこの態度は、ハリマンやシフらにとって「日本の裏切り」であり、戦果を独り占めしようとする日本に対する疑念へとつながっていきました。

 

対立へ

アメリカの日本に対する態度がガラッと変わっていきます。

ワシントン海軍軍縮会議やロンドン海軍軍縮会議といった重要な国際会議が開かれますが、日本帝国に対する締めつけが始まりました。国際社会から日本は孤立していきます。

もしあの時、アメリカ資本が満洲に入っていたら、日米は共に満洲を開発していたでしょう。日米の合併企業が満鉄を運営していたに違いありません。そうなれば、戦争なんて起こるはずもなかった。真珠湾もなかったでしょう。満洲には多くの原油が眠っています。それもいずれ発見され、巨大な利益を産んでいたと思います。

桂・ハリマン協定の破棄によって、日本の運命は大きく変わりました。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
武士道と外交(2018年2月下旬号)-6

 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。