日本人と道徳

by 西 鋭夫 June 15th, 2022

新渡戸稲造

新渡戸稲造の『武士道』は、1900(明治33)年に刊行されて以来、現在でも読み継がれている古典であり、世界的ベストセラーです。

本書が生まれるきっかけは、ある外国人に投げかけられた一つの問いでした。それは「日本には宗教教育がないのに、なぜ道徳が行き届いているのか」というものでした。新渡戸はこの問いに即座に答えられなかったようです。そこで、日本人の道徳や正義感を形成しているのは武士道ではないかと、思索を始めたのです。

新渡戸は盛岡で生まれ、札幌農学校に学び、その後はアメリカの名門ジョンズ・ホプキンス大学へ留学しました。もともと優秀な人で、政治や経済などと分野を分けずに学究を続ける一方、「一国の運命を自分が背負っている」という覚悟と使命感を持っておりました。ジョンズ・ホプキンスのような名門にて、アメリカの優れた人材たちと交流し、自身もどんどんと成長していきます。

武士道

外国ではキリスト教などの宗教が柱となり、そこから道徳観が湧きあがってくるのが普通です。しかし、日本では何を中心に、何を源として道徳観を養っているのか。キリスト教に傾倒していた新渡戸は様々な可能性を考えましたが、なかなか答えは見つかりませんでした。そんな時、彼は宗教とは異なったところに目を向け始めました。それが、私たちが何百年も継承してきた武士道でした。

この着眼力こそ天才の証です。天才たちがそういうことを思いつく。日本の道徳観というのは発達しておりましたが、日本人はなぜそれを維持できるのか。その理由を彼は神道や仏教でもなく、キリスト教でもない、武士道に求めたのです。

武士道には神社もお寺もありません。それは、日本人の魂の中に宿り、鼓動しているものです。新渡戸はそれを西欧人にもわかる形にして書いたのです。

 

『武士道』の中の英語

留学していた時を思い出します。私は教科書の英語は理解できるようになっていましたが、日本人が書いたこの『武士道』は分かりませんでした。

もちろん英語は分かります。そして彼の英語が名文であることもすぐに分かりました。しかし、読めても意味が分からない。初めて読んだ時から、2、3年経った後にもう1回読みました。その時は、8割は分かりましたが、肝心の2割ほどは分からない。

スタンフォードから本を出した後にもう一度挑戦してみようと思い、改めて読み始めました。英文の本で3回も挑戦した本は新渡戸先生の『武士道』だけです。このとき、私は40歳になっていましたが、今度は全て分かりました。今は「新渡戸先生、偉大なり」と完全に確信しております。

それほど高尚な、流れるような名文にて武士道について書かれているのです。アメリカのインテリたちはこの本を読んで「日本の神髄ここにあり」と感じるのです。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
武士道と外交(2018年2月下旬号)-1

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。