捕鯨外交の危機

by 西 鋭夫 June 14th, 2021

調査捕鯨


日本がIWC(国際捕鯨委員会)の顔色をうかがいながら進めている「調査捕鯨」という言葉は、その響きも、示唆されることも良くない。日本のこれまでの捕鯨の歴史を知る人からすると、「調査をするために鯨捕します」というのは、国際社会の笑いものです。誰も本気で信用していないのではないか。

日本ほど調査力が進んでいるところで、今後、何百年、調査を続けるのでしょうか。捕鯨をしていて、「調査です」と言い続けることは非常に難しい。日本は嘘をついているのではないかと思われる。「捕鯨をしています」「捕鯨が必要です」となぜ言えないのでしょうか。

日本は、捕鯨という分野で世界一の優れた技術を持っていますし、鯨という資源を食べ物としても道具などとしても、余すところなく全て使っています。そうした技術や方法を伝授しましょう。そう言える日本外交であって欲しい。


高タンパク源


欧米諸国はかつて、単に鯨油のためだけに捕鯨を行なっておりました。肉は一切食べません。しかしその肉は高タンパク源として、日本人にとっては必要不可欠な栄養源でした。

日本の南極捕鯨が始まったとき、それはGHQ支配下でのことでしたが、マッカーサーは日本人の腹を満たす鯨の重要性を無視できなかった。戦後の食糧難の時です。飢えた日本人がたくさん出てしまっては何が起こるか分からない。反乱が起きてはまずいわけです。そこでマッカーサーは許可せざるを得なかった。

しかし日本人が復活し、どんどんと強くなり、経済的にも豊かになることは避けたかった。故に1951年にIWCに加入させた。日本からお金をぶんどりつつも、日本の捕鯨を監視することとした。


食糧安全保障


日本が「捕鯨」という文化を失うことは、日本の食糧安全保障にとっても深刻な影響を与えます。鯨を獲るための優れた技術も失います。

世界的な戦争が起きた時、あるいは世界的な干ばつや大地震が起きた時、謎のウィルスが世界に蔓延した時、今まで日本に食糧を運んできた国が突然、運んで来なくなる可能性もある。経済封鎖だけでなく、災害などのために、輸送船が容易に海を渡れないこともあるかもしれません。


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皆さん、そんな無茶な話をと考えるかもしれませんが、これらは近未来に十分にあり得る話です。その時、食糧の多くを海外に頼っている日本は大打撃を受けるでしょう。五百円で買えたものが、五千円、一万円なることもあるかもしれない。日本人の食を守るために何が必要か、再考すべきではないでしょうか。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年5月上旬号「捕鯨外交」-5




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。