教科書論争『西洋の歴史』②

by 岡崎匡史 February 27th, 2021

blog197.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

教科書論争『西洋の歴史』①の続きです。

ロゲンドルフ神父が『カトリック新聞』で教科書問題を取り上げたことで論争が巻き起こる。

上智大学も『西洋史の諸問題―「西洋の歴史」への補遺』というパンフレットを作成し、カトリック学校に通う生徒に配布した。

ロゲンドルフのように強い口調ではないにしても、福音書を否定して現世を強調することは、「自づから宗教的恣意の後退と、文化の漸進的世俗化を意味する。ルターによる旧教会の教権の否定は、宗教の領域における個人主義」をもたらしたと、控えめにみえてカトリックの優位を主張し『西洋の歴史』を非難した。

カトリック・ウィークリー


ロゲンドルフ神父が強く批判したことで、『西洋の歴史』の偏向的内容を『カトリック・ウィークリー』(Catholic Weekly)が報道し、アメリカ国内で反響を呼んだ。

1948(昭和23)年1月12日、ウィスコンシン州の牧師ジョン・J・アグニューは、「教科書の記述が本当ならば、日本の非軍事化のためにキリスト教が費やした努力、日本の子どもたちに与えた感銘と聖書の宝珠の言葉を台無しにする」と、マッカーサーに抗議の手紙を送った。

2日後の1月14日、ジョージア州に住むマジョリー・ベンソンも、「キリスト教に対するひどい間違いは、多くのクリスチャンを激怒させるものである」「これはキリストに対するだけでなく、アメリカのキリスト教徒にとって耐えることのできない侮辱である」と、マッカーサーに教科書の訂正を求めた。

叱責


マッカーサーはすぐにCIE局長のニューゼントを呼びよせて調査を命じた。

CIEは、この箇所を直ちに削除。

調査によると、CIEは教科書の出版前に超国家主義・軍国主義的なものには注意を払っていたが、教科書検閲官はこの箇所を見逃した。しかし、何も責任のない著者と出版社は厳しく叱責された。

ニューゼントは、「日本の教育課程と教科書に含まれているキリスト教の内容は、他のどの宗教よりも多い」とマッカーサーにご説明し、「今回の事件で最高司令官にご迷惑がかかりましたならば、私は全責任を負う用意」があるとマッカーサーに報告した。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。

・"Letter, From: John J. Agnew, To: General Douglas MacArthur," 12 January 1948, CIE (A) 07432, Box 5770-63, GHQ/SCAP Records, RG 331, NA.
・"Letter, From: Marjorie Benson, To: General Douglas MacArthur," 14 January 1948, CIE (A) 07432, Box 5770-63, GHQ/SCAP Records, RG 331, NA.
・"Anti-Christina History Text Approved in Japan," n.d., Joseph C. Trainor Papers, Hoover Institution Archives, Stanford University, Box 47.
・ヨゼフ・ロゲンドルフ師追憶文集編集委員会『一粒の麦 ヨゼフ・ロドンゲルフ師追憶文集』(南窓社、1983年)
・佐藤伸雄『戦後歴史教育論』(青木書店、1976年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。