対日講和の裏舞台

by 西 鋭夫 March 2nd, 2017

暗雲


アチソン長官は、アメリカ政府が平和条約に着手しないで、議論ばかりしていると、ソ連が割り込んでくる機会を作っているようなものだと言い、速やかに日本と、話し合いに入ったほうが良いと発言した。

だがマッカーサーは、国務省が時期が熟する前に対日平和条約を推進すれば、それ自体をソ連は逆手にとって、アメリカは日本をアメリカの属国として利用しようと企んでいると吹聴し、日本とアジアでアメリカの威信を落とし、ソ連の浸透を助けることになる、と反論を展開していた。



国防省の反対


統合参謀本部(国防省)は、国務省との会議で、このマッカーサーの論理を引用して国務省の平和条約推進に反対した。

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この会議に出席していたアメリカ空軍参謀総長ホイット・S・バンデンバーグ大将(元CIA長官)は、東京でマッカーサーと話して彼の考えがよく解ったと言い、

「マッカーサー元帥は、平和会議の提案を軍事的な理由に使うというより、寧ろソ連を当惑させ、日本とアメリカの関係を改善する政治宣伝のためだけとして考えている」

と述べた。



マッカーサーの本意


バンデンバーグは、確認のため、マッカーサーに「元帥は、アメリカ政府が平和交渉を進めるのを望んでおられるのか」と尋ねた。

マッカーサーの答えを、バンデンバーグは次のように説明する。

「マッカーサー元帥は、平和交渉の提案が実際に行なわれることを望んでおらず、アメリカが単に対日平和条約の用意があると発表するだけで、ソ連は反射的に反対をするので、日本国民はソ連が日本独立の邪魔をしていると怒り、アメリカにとって非常に効果的な宣伝となる、と言った」


この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。