平家を滅ぼした天才
菅原道真以外にも様々な例があります。たとえば、皆さんよくご存知の源義経です。壇ノ浦の戦いについては聞いたこともあるでしょう。天才的な戦術を持った男で、剣術も強かった。そしてそのお兄さんは鎌倉の将軍、頼朝です。それでこの二人は兄弟ですから、一致団結しておりました。
そもそも、この二人をなぜ平家は殺さなかったのか。子どもの時に源氏が負け、平家の時代になるのですが、二人は三、四歳頃で、「これで首を切ってしまうのは、あまりにもかわいそう。だから寺に預けろ」としました。しかし、これが大きな間違いです。殺さなかったのですよ。
それで、平家が忘れていた頃に、この二人が台頭してくるのです。それでダーッと源氏が平家を追い詰めて、下関の壇ノ浦で潰すのです。
そこからが問題です。天皇一族は、こんな強い義経と頼朝には何か手を打たなければいけないと思いました。そこで純情で天真爛漫な義経を呼び、「おまえに位を与える」としました。義経は政治的に動いていませんから、「ありがとうございます」とその位を受け取ってしまった。一方、政治的なお兄ちゃんは、「このやろう、俺を裏切ったな」と怒りました。裏切ってはいないのですが、そう見えるわけです。それでお兄ちゃんの頼朝は、義経を「討て」となりました。

兄弟対決
それで義経は弁慶を連れてザーッと北の方へ、遠くの方へ逃げていきます。今の岩手県の辺りです。そこで裏切ったのは誰か。奥州藤原氏です。そう、奥州の藤原氏がかくまってやると言い寄って、かくまう振りをして殺した。有名な話です。弁慶が矢を受けて、というあのシーンです。
兄弟喧嘩が殺し合いに発展した。昨日まで一緒に戦って平家を潰した兄弟が、今度は鎌倉幕府にいたお兄ちゃんが、「弟が謀反を起こすのではないか。天皇とくっ付いて俺を倒すのではないか」と不安になったのです。
兄の頼朝からすると、京都の朝廷と一定の距離を取って鎌倉幕府を自立させようとしていたその時に、義経が京都と組んだと思ったのです。皆さん、私たちは今の天皇家を見て、「戦争をしない」、「戦いをしない」と思っていますが、昔の天皇家は戦いのど真ん中です。明治維新の時の戊辰戦争もど真ん中です。
毒饅頭
源義経が不遇の人生を送った背景には、義経には、源氏という組織の一員であるという自覚が欠けていたということでしょうか。かわいそうですが、確かに欠けていたと言えます。政治的にものを考えていなかったのです。とにかく平家を潰して、みんなから「義経すごい」と言われた。そして、超美人と言われた静御前と仲が良いと言われて、チヤホヤされた。
そして、お兄ちゃんに追われて、裏切りにもあい、ひどい目に遭うのです。出世と引き換えとなる「毒饅頭」には気をつけないといけない。義経は毒饅頭を食らったような感じです。というより、自ら食らってしまった。
毒饅頭を差し出した方も、政治的には賢かったのです。「これをやって義経が高い位をいただいたら、お兄ちゃんは絶対怒る」。これを見越して毒饅頭の計を行った。皮肉にも、義経を殺した頼朝の幕府はしばらくは安泰でした。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2022年8月下旬号 出世と人事-7
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

