明治維新の七不思議
やはり出世と引き換えとなる「毒饅頭」には、注意しなくてはならない。組織の中で、働きが認められたら昇進し、ミスを犯せば罰せられる。しかし、世の中は必ずしも「信賞必罰」の原理だけで動いているわけではありません。縁故、コネであったり、家柄、姻戚関係、取引先など、さまざまな要因が絡み合います。
日本の歴史を見て、能力を重視して、人を大事にした風雲児には、どんな人物が挙がるのでしょうか。皆さん、私がいつも不思議に思うことがあります。
この間、長州へ行ってきました。山口県の萩へ行ったり、松陰神社を見たり、それから下関で春帆楼という、日清戦争の時に切羽詰まって会談をやった所などをずっと見てきましたけれど、長州、山口はもう山ばかりです。田んぼはあるのかという感じで、超貧乏な長州藩でした。長州藩は絶えず民が飢えていました。
ところが、そこから今日までに総理大臣が、伊藤博文をはじめとして八人も出ています。その長州からです。人口の多い東京から八人も出ましたか。人口の少ない山ばかりの所から、伊藤博文をはじめ、岸信介、佐藤栄作、安倍晋三。佐藤栄作と安倍晋三は、日本の歴史の中でも長期政権を築いた総理大臣です。
この秘密は何でしょうか。なぜあそこから、これだけの人物が出たのでしょうか。松陰先生がおられたからでしょうか。冗談ではありません。ほかにも偉大な男たちがいたでしょう。つまり、出世の中には能力はごく一部で、ほかの要素がたくさんあるということです。
金持ちは金持ちと一緒になる
皆さん、渋沢栄一をご存知ですね。私は渋沢栄一が好きですし、非常に優れていると思います。彼は女性が大好きで、次々と愛人を、それからお嬢さん、僕ちゃんをたくさんおつくりになりました。
それで、その息子や娘たちは誰と結婚したのでしょうか。その時のお金持ち、有名人、政治家です。ですから、お金持ちはお金持ちと結婚するのです。アメリカもそうです。お金持ちのお嬢さん、僕ちゃんはお金持ちと結婚します。日本もそうです。
私たちのように百億円も二百億円も持っていない人間は、財閥の娘や息子と結婚はしませんし、できませんし、相手にしてもらえません。そうやってお金持ちの世界では、お金だけではなく、人脈も、家柄も、姻戚関係もつながっていきます。
政治権力そのものは持っていないかもしれません。しかし、お金と人脈を通じて政治家ともつながっていく。それが世の中の常です。だから、出世というものを「能力があるから上に行った」とだけ考えてはいけません。実際の社会では、能力以外のものが非常に大きく働いているのです。
渋沢栄一
しかし、そこで面白いのが渋沢栄一です。渋沢栄一自身は、最初から大金持ちだったわけではありません。大財閥の御曹司でもなければ、最初から強力な政治的人脈やコネを持っていたわけでもない。身分もごく普通です。だから、ある意味では例外なのです。

お金持ちはお金持ちと結び付き、権力者は権力者と結び付く。そういう社会の仕組みがある中で、渋沢栄一は自分で人脈をつくり、自分で信用をつくり、自分でのし上がっていった。私は、そこが渋沢栄一のすごいところだと思っています。
もちろん、出世してからは多くの有力者とつながります。その子どもたちも、政治家や実業家など有力な家と結び付いていく。しかし、渋沢本人が出発した地点はそこではありません。金もない。強力なコネもない。特別な家柄でもない。そこから上っていった。
世の中では「能力さえあれば出世できる」と言います。しかし、実際にはそんなに単純ではありません。能力、家柄、縁故、金、人脈、時代の流れ。いろいろなものが絡み合っています。その中で、何を持って生まれ、何を自分でつくっていくのか。出世というものを見る時には、能力だけを見ていてはいけないのです。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2022年8月下旬号 出世と人事-8
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

