米朝首脳会談

by 西 鋭夫 February 9th, 2023

トランプ政権の狙い

多くの方々が「北朝鮮は貧しく小さな国だ」と思っておりますが、これは間違いです。米国のトランプ大統領が、なぜそんな国のトップに会いに行くのでしょう。金正恩委員長が怒ったら何をするか分かりません。高性能ミサイルを開発しただけでなく、核も持っている。「俺を攻撃したら、絶対報復するからな」という戯言が成り立ってしまう、北朝鮮とはそんな国なのです。トランプ大統領はそのことを熟知しております。

同国に対するトランプ政権の動きについて、反トランプ・メディアは「宥和政策である」などと批判していますが、これも的外れです。トランプ氏の行動はそんな小手先ではなく、金委員長の国際的なステータスを上げ、気持ち良くさせた上で、ミサイルと核開発を本気でやめさせようとしております。ステータスが上がった金委員長は下手な行動は出来ません。トランプ大統領との約束も果たせないでしょう。

この政策は「宥和」ではなく、金委員長に対する非常に大きな圧力となっています。事実、米朝首脳会談以降、北朝鮮からのミサイルは来なくなりましたね。三陸沖には落ちていないでしょう。


経済制裁

その一方で米国は経済制裁を続けています。しかし、それはどれほど意味があるものなのでしょう。北朝鮮と国交を結んでいる国は100カ国以上でしょう。あの北朝鮮に100以上の各国大使館が所在するのです。すなわち、国際社会のおよそ半分の国とは付き合いがあるのです。

経済制裁をしても効果はありません。効果がないと知りながら、米国は制裁を続けているのです。それがまた外交カードになります。

現在、北朝鮮は落ち着いていますが、これからもまた金委員長とトランプ大統領はお話を続けるのではないでしょうか。そうすると今度は、韓国と中国が何らかのアクションを起こします。韓国はアメリカに対して苛立ち、アメリカに文句を言い始めるかもしれません。一方の中国は裏をかかれたと思い、焦るでしょう。そして北朝鮮にグッと近づいていくかもしれません。

 

エリート外交の失態

では、日本はどう動くのか。外交に臨む姿勢についてまずは厳しく指摘しないといけません。日本では現在、プライドの高いエリート外交官たちが国際交渉を担当しているように思います。彼らは理想ばかりを掲げ、トランプ外交のような実践的駆け引きが苦手です。

外交は理想では動かないのです。外交は喧嘩です。武器を後ろに隠しておいて、鎧の上に衣を着ながら行うのが外交です。鎧を着ていない人と、鎧を着て、その上に衣を着ている人の交渉は同じではありません。私たちの外交交渉が下手なのは、最初からいわば「弱い国」として出て行っているからです。「お金はありますよ、出しますよ」と言うだけで、ほかに出せるものはありません。

「それなら金を出せ」と、70年間金を取られてきました。米国債も永遠と買わされているでしょう。「あれを返せ」と言ったら日本は潰されます。日本はそんな状態なのです。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年1月下旬号「日本独立への道」-6

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。