セオドア・ルーズベルト

by 西 鋭夫 June 29th, 2022

武士道に惚れ込んだ男

日露戦争は1905年に終結します。その時に結ばれたのがポーツマス条約ですが、同条約の締結において極めて重要な役割を果たした人物にセオドア・ルーズベルトがおります。第26代米国大統領です。

この人は大男で狩りが大好きでした。水牛やライオン、巨大なヒグマなどを狩ることを特に好んでいたようです。彼が仕留めた身長約3メートルの巨大なクマは、剥製となってホワイトハウスに飾られていたようです。

そんな彼が感銘を受けた本、それが新渡戸稲造の『武士道』でした。

 

仲介

大きな衝撃と深い感動を受けた彼は、この本を自分の息子や娘に熟読させただけでなく、20名から30名ほどの側近たちに暗記せよ、と命じたようです。

太平洋の向こう側にあるあの小さな島にて、なぜこのような美学が生まれたのか。カリフォルニア州よりも小さなあの国が、なぜ中国と戦えるのか。さまざまな疑問を持ちながら一気に読んだのでしょう。

読んで数年後に日露戦争が勃発しました。大きなヒグマを撃って楽しんでいる男は、大国ロシアに戦いを挑む日本にまたしても大きな衝撃を受けたに違いありません。ロシアがヒグマだとすれば、日本には武士道はあれど、その規模は小さなウサギちゃんだと、彼は思ったかもしれません。

「勝てる見込みのない戦い」を見事に戦い抜き、戦果を上げている日本軍に対し、セオドア・ルーズベルトは長期的な戦いとなれば「日本に不利」であると見抜きます。そこで彼は戦争を終わらせようと、日露の間に入っていきます。

 

条約締結

ロシアは戦争を止めたくない気持ちだったと思います。負けてはいましたが、「まだまだ初戦だ」という状況でした。日本はアメリカに対して必死で「お願いします」という状況だったと思われます。

そんな中でアメリカは、半ばゴリ押しのような形で、日本の代表とロシアの代表をポーツマスに集め、講和条約を結ぶ舞台を整えました。日本から出席したのは小村寿太郎、この後、外務大臣になる男です。モスクワから来た特使は、始末に悪いほど上出来なセルゲイ・ヴィッテです。

ヴィッテは公爵でしたが、演説はお上手だし、交渉力は抜群でした。ヨーロッパと何十年も交渉している国の特使です。彼の演説に、小村も、ルーズベルトも圧倒されました。

そんな中で、あの有名なポーツマス条約が結ばれました。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
武士道と外交(2018年2月下旬号)-5

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。