役に立つ研究の落とし穴
「役に立つ」というと聞こえがいいし、それはそうだなと思いますが、これにより学問の世界が潰れていくのです。
応用科学の世界と、その応用の前にある基礎研究の世界について考えないといけない。応用科学は一から一〇、一〇〇を作って、素晴らしいものをいろいろと作っていきますが、それだけではノーベル賞に届くとは限りません。では、誰がノーベル賞を貰うのか。基礎科学という、まだ何もないところ、すなわちゼロから一を作った天才たちです。
たとえば、私たちがガキの時に習った湯川秀樹先生。彼のノーベル賞につながった研究は、二八歳の時に発表したものです。天野浩先生も若い頃から青色LEDの研究に取り組んでいます。
日本では企業や文科省が学校や大学にこれからお金をガンガン出すとしたら、最初に欲しいのは「役に立つ研究」です。ゆえにその結果として、日本はこれから延々とノーベル賞を逃がすことになりかねません。
基礎研究の重要性
高度な応用研究をするには、その裾野である「基礎研究」をしっかり行わなければならない。一から一〇ではなく、〇から一を創り出す研究が不可欠になってきます。しかし、産業に直結する研究が重視されるようになり、基礎研究はおろそかにされている現実がある。
皆さん、野球でたとえれば、小・中・高で練習をしっかりやらないでプロになれるのですか。大学の野球部に入れるのですか。無理です。この話と基礎研究は同じです。
ところが、学問の世界にそれを当てはめると、何だか一から一〇〇を創ったのが素晴らしい天才で、〇から一を創った人になると、皆さん、もう見ていないですよ。〇のところで必死にやって、やっと一を創り出せる人は、普通の天才ではないのです。ですからノーベル賞も、そこを見ているのです。
いい自動車を創ったから、一リッターでどれぐらい走れるなどの研究は確かに役に立ちますが、それだけがノーベル賞の世界ではないのです。私たちの科学的進歩は、やはり〇から一を創る人のおかげです。そこをやっていないと、私たちはあるものを使って、それが消耗したら終わり、なくなったら、どこかの国がやっているものやことを高い特許料を払って使わせてもらう訳です。NO、NO、日本は気を付けなさいよ。

天下り
交付金や補助金を貰うことで、大学はどのような恩返しをしているのか。こんなことを言うと殴られると思いますけれど、日本の大学のトップの事務方や、ある分野のポストには、文科省からの天下りが入り込んできました。文部省の時代からずっとです。
私は日本の大学で教えていた時に、「え、あの人どこから来たの」と聞いたら、「文部省です」と言われました。なぜか皆さん、ひそひそ声でそれを言う。明治の時から、たとえば東大は「国家ノ須要ニ応スル学術技芸」を教授し研究する大学として位置付けられ、官僚を養成する役割も強く担ってきた。この流れはもうそこから始まっております。
この世界にはどれだけ天下りネットワークが広がっているのか。永田町から全国に、天下りという天の川が、銀河が流れているのです。ここに文句を言うと、その大学は目をつけられる。そういう空気です。
これは日本の非常に悪いパターン。政府が何かお上で、俺たちは半奴隷。平民であり、平民の大学はいじめられる。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2023年9月下旬号 大学崩壊-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

