天安門の闇

by 西 鋭夫 November 20th, 2023

ブラックリスト

私が中国に行ったら、フーヴァーレポートはもう皆さんにお届け出来ないかもしれません。十数年前のことですが、ある学生が「西先生、中国で有名ですよ」と教えてくれました。「なんで有名なの」と聞くと、その学生はパソコンをカチャカチャとやってあるホームページを出して、見せてくれました。タイトルは日本語で「殺したい日本人100名」とあります。そこに石原慎太郎さんらと一緒に私の名前が出ておりました。

そんな国には行けないでしょう。行ったらおそらく暗い部屋に誘導されて、パスポートを取り上げて、「西先生の肝臓はお元気ですか」「元気です」となりますよ。そんなおり、上海にある大学から私に「ぜひ来て下さい」と要請がありました。タイミングがあまりにも良いので、「私が行ったら危ないのではないですか」と言ったら、その大学の先生から「西先生、今は大丈夫ですよ」と返事を頂きました。そんなところに行ける訳ないでしょう。

中国ではたくさんの方々が行方不明になっております。反政府的なジャーナリストが失踪した例は大勢あります。大学の先生もいなくなった人がいます。最近では芸能人から一般の民間人まで含めて、見境なく失踪者が出ております。

 

天安門事件

中国政府によるインターネットの検閲は日に日にその厳しさを増しているように思います。例えば、今から30年前の1989年、北京の天安門広場で民主化を求める大規模デモがあり、当時の中国政府がこれを武力で鎮圧するという事件がありました。一般人の死者は中国政府による発表ですと300人前後ですが、他国のメディアでは数千人から1万人とするところもあります。

さて、この事件から30年経った今、中国ではこのことをネットなどでまともに調べることができません。SNSでやり取りするなどもってのほかです。これをやったら検閲に引っかかり牢屋に入れられてしまうでしょう。

 

AIによる監視

現在の中国ではいわゆるインターネット上の検閲が厳しくなっているだけではありません。AIによる顔認証が行われており、どこにいて、誰が何をしても、個人がほぼ特定できてしまうという状況になっております。全国各地のいろいろな場所にカメラがあるわけです。そのカメラに映った顔をAIがデータとして集積し、その人物が誰かを特定しているのです。

皆さん、13億人分の顔認証ですよ。いかに凄まじいものかわかるでしょう。悪いことをした場合、カメラに映し出された顔から、ものの数秒でプライベートな情報まで含め身分証がずらっと出てくるのです。うっかり共産党の悪口なんか言って、どこか地方に逃げたと思っていたらそこでカメラに捕まって、数時間後には警察が来ます。そんな世界です。

こういう国が今、ものすごい財力を持ちながら米国と対決しようとしているのです。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
言論の自由(2019年6月下旬号)-6


この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。