プーチン政権の狙い

by 西 鋭夫 December 30th, 2020

ロシア民間旅客機の墜落


2015年10月、ロシアの民間旅客機がエジプトのシナイ半島に墜落しました。乗員乗客を含め224名が死亡しました。

プーチン大統領は11月、旅客機の墜落はテロによるものと断定しました。そして、テロ実行犯に関する有力情報提供者に5,000万ドル(日本円で約60億円)の報奨金を出すと発表しました。

プーチン大統領は今、何を考えているのか。どこを見ているのか。ロシアの動きが気になります。難民で大きな問題となっているシリアの背後にもロシアがおります。


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ロシアの思惑


プーチン大統領は、パリの同時多発テロに際し、ISISを壊滅するためには主要国間での協力が不可欠だと述べました。そして、テロ対策にて足並みを揃えることの大切さを説きました。言葉だけでなく、実力行使という点でも抜かりありません。イスラム国の主要拠点に対する空爆も行いました。世界がプーチン氏の協調姿勢と、実力行使を評価しています。

しかし、彼は本当に国際的な協調とISISの殲滅を求めているのでしょうか。答えはノーです。真の狙いはロシアの大国化です。そのためにISISをどう使うか考えているはずです。

ロシアはISISを壊滅させようとは微塵も思っていない。この集団が強くなりすぎて、アサド大統領率いるシリアにとって脅威となれば、叩くでしょう。しかし、これはあくまでもイスラム国の弱体化が狙いで、壊滅は意図していない。プーチン大統領からすると、イスラム国もシリアも、対米・ヨーロッパ外交の重要なカードです。


プーチンの一人勝ちか


これらのカードを生かし続けるためにも、ロシアは今後、ISISを適度に叩きつつ、シリアの反体制派(反アサド派)も程よく叩くでしょう。さらには、アサド政権に対しても支援し続けるでしょう。対テロ戦争を長期戦に持ち込みつつ、アサド政権を後ろから操りながら、米国とヨーロッパをけん制する。その一方で、ウクライナの半分、クリミア半島などでの支配権を拡大し、それを絶対的なものとしていくでしょう。

米国のオバマ大統領は、クリミア半島に進軍したロシアの暴挙を許していません。怒り狂っている状況です。しかし、ISISとシリア問題を巧みに操るロシアに対しては何も出来ないでいます。難民問題で右往左往し、経済的に疲弊したヨーロッパにも、明確な対プーチン策はありません。




西鋭夫のフーヴァーレポート

2015年11月下旬号「パリ同時多発テロ」− 5




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

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1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。