決戦・北大会合

by 西 鋭夫 February 10th, 2017

イールズに抵抗せよ


イールズは、大学の学生と教授に、深い失望と不信を引き起こし、5年前の恐怖の日々を思い出させた。

イールズ反対のデモが、彼の行く先々で起こった。

イールズは、自分の演説が「しばしばブーブーなどの野次、〝嘘つき〟〝民主主義の敵〟〝戦争屋〟などの叫びで妨害され、絶え間なく攻撃を受けた」と嘆いた。

1950年5月15、16日に北海道大学で行なわれたイールズと教授とのやりとりは、その典型である。



北大対話


守屋美賀雄教授(理学博士)

「政治演説としては大出来であったが、大学でする講演としては論旨があまりにも浅薄で(拍手)哲学的にも軽薄である(拍手)。私はローマカトリック教徒であるが、しかしわたしの専門である数学についていえばカトリック的またはマルキシズム的ということは問題ではない。現にソ連にも優秀な数学者が多くいる。したがっていかに優秀な学者でも共産主義は思想の自由をもたないという理由で大学から追放されるというならばわたしもカトリック信者として追放されることになるとおもうがどうか(拍手)」

イールズ博士

「わたしは数年前数学の教師をしていたのでなつかしい。イギリスの『1984年』という本によれば『ソ連では将来2+2=5といわざるを得なくなる』といっている。共産主義のもとでは数学すら真理たり得なくなる(哄笑)」

司会者理学部長松浦一教授の「本日はイールズ氏の回答はしどろもどろであった(満場拍手)。こんやはゆっくりやすんでもらって不明な点は明日討議しよう(異議なしと拍手つづく)」という発言で幕をとじた(『アカハタ』5月24日に、北大の教授たちがイールズを徹底的に侮辱した様子が詳細に掲載されている。引用文は原文のまま)。


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北海道大学の様子(1930年代)


北大講演の中止


この直後、北海道大学での講演は中止された。

翌日の5月17日、司会を務めた松浦学部長は、「今回の講演中止の責任は私にある」と辞表を提出した。

この事態を知ったCIEは怒り狂い、ルーミスは文部次官に「松浦教授は厳しい懲罰を受けるべきであり、少なくとも謝罪すべきである」と迫った。

ニュージェント局長も天野貞祐文部大臣に松浦の処分を要求した。


この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。