刺殺

by 西 鋭夫 October 29th, 2015

英雄・浅沼稲次郎

実際、外国特派員も時々、怪しげな報道をした。

1950(昭和25)年5月1日、日本の労働者は全国でメーデーの祝賀行事を行なった。東京の皇居前広場には、およそ60万人の労働者が集まった。「平和と独立を闘い取れ、全面講和の促進」をスローガンとし、社会党の浅沼稲次郎、共産党の野坂参三が祝辞を述べ、盛り上がった。

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浅沼稲次郎


浅沼は、早稲田大学の学生時代から労働運動に精力的に参加する。戦後、日本社会党結成に尽力し、戦後初の衆議院議員選挙に当選。1960(昭和35)年の日米安保闘争で大活躍。

我々、大学生の絶大な信望を受けていた。同年10月12日、東京日比谷公会堂で党首立会演説で登壇中、極右少年山口二矢に刺殺された。全国のテレビ放送で、その悲劇の瞬間を国民は目撃した。私自身、大学1年生の18歳の時だった。

私の「英雄」の1人が亡くなったと思った。

山口は、練馬の少年鑑別所で、11月2日、首吊り自殺をする。


捏っち上げ放送


1950年5月1日、メーデーの祝日、ABC News(アメリカの3大ネットワーク)のウォールター・ウィンチェル記者は、

「東京での共産主義者の暴動によって、14人のアメリカ兵士が重傷を負って病院に運ばれました。みなさん! アメリカ兵は警棒と催涙弾だけを武器として戦っています。彼らは拳銃を使うことができないのです!」

とラジオでセンセーショナルに報じた。ウィンチェルは、全米に大きな影響力を持っていた記者で、20年間続いた自分のラジオ番組も持っていた。

陸軍省はマッカーサーに真偽を確かめた。マッカーサーは翌日、回答を打電した。

「ウィンチェルの報道は完全な作りごとである。東京のメーデー集会では、暴動や騒乱は全くなく、日本降伏以来最も静かで、秩序正しい集会だった。ウィンチェルの捏っち上げ放送は、国際関係を破壊し、今日の世界を悩ませている緊張をより激化させることに狙いがある」

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。