マッカーサーの「ブラック・リスト」

by 西 鋭夫 October 29th, 2015

狙われた米国紙


「ゲイン潰し」は、マッカーサーがとった極端な例ではなかった。

マッカーサーは、新聞に関する「ブラック・リスト」を作成しており、それが陸軍省との交信中に出て来た。

陸軍省は、1946年11月1日、マッカーサーに12人のアメリカのジャーナリストの太平洋(日本、朝鮮、フィリピン)取材旅行を歓迎するよう求めた。

マッカーサーは、記者たちが占領政策について嗅ぎ回るのを好まなかったが、翌日、陸軍省に返電し、「陸軍省の要請なので反対はしない」「訪日するグループの中に一線の記者は加えず、新聞発行者と編集責任者に限定して欲しい。また、占領政策に敵意を持っている新聞は加えないでもらいたい」と注文をつけた。

「占領政策に敵意を持っている新聞」として、『クリスチャン・サイエンス・モニター』『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』『シカゴ・サン』『サンフランシスコ・クロニクル』『デーリー・ワーカー』を挙げ、「これらの新聞記者や社説は偏見に満ちているだけでなく、全くの出鱈目や捏っち上げの記事を書く」と口汚く罵った。


反撃


このマッカーサーの秘密電報が洩れ、アメリカで著名な記者のドルー・ピアーソンが、『フィラデルフィア・レコード』紙に12月3日付で全文を暴露した。

『サンフランシスコ・クロニクル』紙の編集長、ポール・スミスは翌日、「もしピアーソンの記事が事実なら、マッカーサー元帥の謝罪を強く要求する。元帥は日本の最高司令官であり、重大な国家的責任を負ってはいるが、同時に一介の市民でもある」と陸軍省に激しく抗議した。

陸軍省は同日、マッカーサー宛に電報を送り、

「陸軍省はあなたが党派性のない『クリスチャン・サイエンス・モニター』や、共和党系の『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』を排除したことに驚いている。また、ポール・スミスが編集長をしている『サンフランシスコ・クロニクル』も共和党系であり、しかもスミス編集局長は海兵隊と海軍で見事な武勲に輝いた人物である」

と再考を促した。マッカーサー自身も共和党系。

陸軍省は、日頃からアメリカ陸軍の大英雄と崇拝しているマッカーサーに注文を付けることを極端に嫌がってきたが、判然した提言をせざるを得なくなった。

ロイヤル陸軍長官は同9日、マッカーサー宛電報で、「ピアーソンの記事に名前が挙がっている新聞も取材旅行に加わることが望ましい」と勧告した。マッカーサーは同日、「陸軍長官の要望に従います」との電報を送り返した。

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この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。