ロイヤル陸軍長官

by 西 鋭夫 July 6th, 2015

財閥解体は愚策だ


ケネス・C・ロイヤル陸軍長官も、惨憺(さんたん)たる日本経済の原因は急激な財閥解体にある、と信じていた。彼は戦争省次官の時、訪日(1946年3月10日~14日)し、マッカーサーと会談し、日本を視察した。

彼はマッカーサーが余りにも絶対権力を手に握っていることに恐れを抱いた。

「戦争省 The War Department」は1789年8月7日に設立され、1947年9月18日に「陸軍省 Department of the Army」に改名され、「国防省 Department of Defense」の一部になる。

マッカーサー vs 陸軍長官


陸軍長官になったロイヤルは、マッカーサーの財閥解体を中止させるため、マッカーサーと仲の悪い国務省の応援をたのみ、自分の考えを私的電報でマッカーサーに伝えた。

マッカーサーの返答と合わせると、次の対話となる。

ロイヤル「財閥解体はアメリカ的ではない。なぜならば、没収された財産への賠償が不十分だからである」

マッカーサー「財閥解体は民主的資本主義の下、企業の自由、政治の自由を破壊するイデオロギーおよび制度の広がりを防止するための堅牢な防波堤の役目を果たす」(ロイヤル陸軍長官の期待に反し、国務省はマッカーサーを支持し、「もし、十分な賠償金が支払われたら、旧財閥は再び完全なる力を取り戻し、経済独占の旧地位を維持することになるので、不十分な賠償は当然であり、財閥解体は健全なアメリカ的なもの」と言った)

ロイヤル「連合国軍最高司令官の財閥解体計画はやり過ぎだ」

マッカーサー(返答なし)

(国務省「マッカーサー元帥がやり過ぎるとは信じがたい」)

ロイヤル「財閥解体は日本の経済復興を妨害する」

マッカーサー「解体の実施が遅れれば、日本の経済復興は重大な危機に曝されることになろう」

(国務省「解体の遅れは、日本人ビジネスマンの間に、アメリカは本当に財閥支配から解放してくれるのだろうか、財閥が再び復興し、彼らの手で報復されるのではないか、という恐怖を作り出すことになる」)

ロイヤル「財閥解体を調査するため、一般市民から成る委員会を設立すべきである」

マッカーサー「計画が失敗するか成功するかは、日本が政治と経済の自由を選択するか、それとも自由というものが架空でしかない社会主義を選択するか、の問題である。既に実行中の政策を再検討することは、政策の成功を疑わしめることになろう」

(国務省「そのような委員会は機密を漏らしてしまうし、日本人もアメリカが解体計画に不安を抱いていることを知れば、我々の政策が成功するとは考えられない」)

マッカーサーを怖がる国務省


国務省の高官たちは、マッカーサーの財閥解体続行に同意し、ジョージ・C・マーシャル国務長官がロイヤル陸軍長官に対し、反対意見を撤回するよう勧告した。

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マーシャル元帥は、アメリカで英雄的な存在である。国務長官を1947年から1949年まで務め、在任中の1947年6月5日、ハーバード大学の卒業式祝辞演説で、有名な「マーシャル・プラン」を提案し、ヨーロッパの復興に尽力した。その貢献が評価され、1953年ノーベル平和賞が授けられた。

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。