現場の教師が教科書を選ぶ時代へ

by 西 鋭夫 September 28th, 2026

教科書検定

皆さん、「教科書検定」という言葉を見てください。「検定」と言うと、何か非常に偉い人がいて、正しいことと間違ったことを判定してくれるように聞こえる。しかし、実際に行っているのは文部科学省という政府の役所です。私はこの制度に、もう何十年も反対してきました。

二〇二二年度からは高校に「歴史総合」「公共」「情報Ⅰ」などの新しい科目ができるという。情報ではプログラミングを教えるようです。私からすると、そんなこと今さら何を言っているのか、と思います。アメリカの学校を見て言っていますが、子どもたちはもう自分で使うプログラムを自分で作っている。そんな時代です。日本も、もっと早くから自由に学べる環境を整えればよかったのです。

日本では国が決めなければ、俺たち平民は何もできないのですか。俺たちはそれほどバカか。そして、法を作ってそれを行使する人たちはそれほど賢いのか。中央政府が教える内容を細かく定めて、それに合った本だけを教科書として認める。そうした仕組みが当たり前だという感覚を、まずは疑いたい。

まして今は、皆さんの持っている携帯電話に、知りたいことを調べるための情報が山ほど詰まっている。もちろん、情報には間違いもあります。だからこそ、一つの本に書いてあることを覚えるだけではなく、いくつもの資料を読み、確かめ、自分で判断する力を育てるべきです。教科書など、正直言って、それほど絶対的なものではありません。

歴史教育

日本には素晴らしい歴史があります。ところが授業では、古代から順番に進み、明治維新にようやくたどり着いたところで時間がなくなる。明治維新の後はどうなったのですか。戦争はなぜ起こったのですか。敗戦と占領の時代に日本はどう変わったのですか。一八六八年から今日までも、立派な日本の歴史です。私はそこをもっと詳しく教えてほしい。

私が高校に入ったとき、歴史の先生は七〇歳くらいの方でした。進むスピードは遅かったけれど、実に素晴らしい先生でした。教科書に書かれていないことまで、詳しく話してくださるのです。「うわぁ、こんなことになっていたのか」と、私は歴史が好きになりました。生徒に影響を与えるのは、結局、教科書ではないのです。先生なのです。

それなら、それぞれの学校の歴史担当の先生が、本を選べばよいではありませんか。教育委員会に全部決めてもらうのではなく、現場の先生方が、自分の生徒に何を読ませ、どう教えるのかを考える。学校によって選ぶ本が違ってもいい。むしろ違うからこそ、「こちらにはこう書いてある」「あちらは違う」と議論が始まります。本当の議論ができる。

 

現場主導の教育を

そもそも、教科書が四年程度の周期で改訂されるとして、四年ごとに歴史の出来事そのものが変わるわけではありません。新しい研究が出ることはある。資料が見つかって、これまでの説明を改める必要が生じることもある。しかし、そのことと、その時々の政治的な配慮で何を載せるかが変わることは分けて考えたい。子どもたちが読む本だからこそ、単なる年号の暗記ではなく、その内容を丁寧に伝えてほしい。

私が言うと、教科書を全部捨てなさいと聞こえるでしょう。そうではなく、一冊だけを唯一の入口にするな、という話なのです。歴史が好きな子は、もっと分厚い本を読めばいい。疑問を持った子は、別の著者の本を開けばいい。先生が授業で「この問題には別の見方もある」と話せば、子どもは自分の頭で考えます。学校でそれをやらずに、いつやるのですか。

検定が要るのか、要らないのか。その前に考えてほしいのは、誰が子どもを信じ、誰が先生を信じているのかということです。私は、国が導く教育よりも、現場の先生と子どもが一緒に問いを立てる教育の方が、ずっと面白く思えるのです。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2021年5月下旬号 教科書検定-1

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。