才能を潰す組織

by 西 鋭夫 July 27th, 2026

告げ口

私がある大学で教鞭をとっていた時のことです。学長から呼ばれまして、お話をしていた時、学長がポツリと「西先生、男の嫉妬は嫌らしいですね」と言われました。

学長のところへ、「西がああした、こうした」とわざわざ告げ口をするやつが現れるわけです。あることないこと、どうでもいいのですが、とにかく告げ口をする。学長もバカではありませんから、「こいつらは一体、何を言っているのだ」と思うわけです。それで私にぽつりと、「男の嫉妬というのは嫌らしいですね」と言ったのでしょう。

人事や出世についてはいろいろなことが言われておりますが、私は出世のことはあまり考えたことがありませんでした。職業柄、学校で役職に就いたこともありません。一度もないですし、そもそも興味がない。ですから、告げ口する方も単にエネルギーと時間を浪費しているだけです。当人には出世意欲など全くないのですから。

私が今までずっとやってきて、一番したかったのは、誰にもできないリサーチをして、誰にも書けない文章で本を出すことでした。その個人技で世界の頂点にたどり着くことができました。しかし、大きな組織の一員として働くとなると、別の問題が出てきます。足の引っ張り合い、派閥抗争、利害関係など、さまざまな要因が絡み合ってくる。だから研究の世界のようにはいかない。

 

東大の植民地

才能ある人材を見つけ、それを引き上げる人、すなわち上司や社長の力量が決定的に重要になります。才能のある人物を守る、ということです。

これは三、四年前に聞いた話ですけれど、日本の官僚システムは東大の植民地のようになっているとのことで、こんな話を聞きました。

五、六人、その大学出身者が集まっているところに、一人だけ慶應出身者がやってきた。職位は皆さん同じランクです。それで東大卒が慶應出身者に「おまえ、よくここまで上ってきたな」と言った、というのです。

これは表面的な発言ではありません。東大を出ていない人が官僚として出世するはずがない。出世する方がおかしい。という趣旨です。

日本の官僚制は東京帝国大学、すなわち明治政府の官僚養成所、と一緒になってできたものです。ですから、そこが独占して当然だと思って一九四五年まで来た。そして、マッカーサーの改革を逃れ、また東京大学でずっと官公庁の要職を占めているわけです。だからそんな発想でものが言えるのでしょう。東大のことを悪く言うのではありません。ですが皆さん、これは現実の問題です。

 

有名大学の慣例

私の助手に、非常に優秀な、有名国立大学で学位を取った男がいますが、彼は学部時代は違う大学で、大学院から有名国立大に進学した人です。

その彼が同大学の助教に応募しようと思った時の話。噓か真か分からないのですが、「学部卒で上がってきていないから、それは無理なんじゃないか」との噂があったようです。つまり、その大学で職を得たいなら、学部からスタートしていないといけない。そんな世界です。時代錯誤もはなはだしい。

それなら、世界の超名門校はどうか。スタンフォードの場合は、学部からスタートして、そこで修士課程に入り、博士課程に進んだ学生は、スタンフォードは絶対に雇いません。「優秀だから、しばらくプリンストンに行け。あるいはイェールか、コロンビアに行け」とやります。それで五年ほど他流試合をさせる。その後に戻りたかったら戻る。

すなわち、近親相姦をさせず、他流時代をあえてさせるのです。そうしないと組織が強くならない。学問も発展しない。日本の学問が進化しないのは、そしてその卒業生たちで作る組織がいつまで経っても変わらないのは、その閥の塊が強すぎて、ほかのアイディアを、ほかの血を入れることができないからです。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2022年8月下旬号 出世と人事-3

 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。