From: 岡崎 匡史
研究室より
日本には、保健所が全国のいたる所にある。
世界的にみても、日本の公衆衛生は群を抜いている。
はたして、全国的な保健所制度はいつ確立されたのか?
日本政府は、戦前から保健所の建設に取り組んでいます。1937(昭和12)年に「保健所法」が成立。しかし、日本全国に保健所や支所が本格的に設置されはじめたのは、戦後のこと。GHQの占領政策が礎を造っています。
人事刷新
戦前の厚生省(現在の厚生労働省)は、官僚のトップに就く人材は法学部出身という不文律がありました。技官(医師)は、出世コースから排除されていた。どんなに業績があっても、「技術屋」と軽蔑される文化が根強かったからです。
しかし、GHQは厚生省を改革するため、まず人事に手をつけた。公衆衛生・医療行政を推進するために、技官を局長に据えるという人事を断行する。
GHQは、公衆衛生を指導するのは、ミスター(事務官)ではなく、ドクター(医師)がやる。これが、当然のことであると考えていたのです。
保健所改革
厚生省の人事を刷新した GHQは「保健所改革」に乗り出す。現場の最前線である保健所を整備し、人材を育成しなくてはならない。
GHQは日本の保健所を立て直すために、各県に「モデル保健所」を設置することを目指した。保健所のネットワークを形成し、専門職員を配備しようとしたのです。
「モデル保健所」ではGHQのスタッフたちが直接指導し、関係者たちは保健所業務に精通するための講習を受けた。一連の講習を受けた職員は、全国各地に散らばり、それぞれの地域で知識を伝達していく。
GHQの指導の下、1947(昭和22)年9月5日に「保健所法」が改正。こうして、国民の健康を護るために保健所が各都道府県に設置され、日本の公衆衛生・予防医学が向上していく原動力となったのです。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・杉山章子『占領期の医療改革』(勁草書房、1995年)
・GHQ/SCAP『GHQ日本占領史 第22巻 公衆衛生』(日本図書センター、 1996年)
・三浦正行『PHWの戦後改革と現在』(文理閣、1995年)
・クロフォード・F・サムス『GHQサムス准将の改革』(桐書房、 2007年)
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。