天才を生む教育

by 西 鋭夫 April 29th, 2020

大学の厳しさ



私が最初に行ったアメリカの大学は、ワシントン州で一番大きく、学生人口が3万人ぐらいのワシントン大学です。その半分は大学院生です。最初に1年生が、あちこちから5000人ほど入ってきます。その5000人のうち、4年で卒業できるのは2000人ぐらいです。非常に厳しいです。

あとの3000人は落第です。もう難しくてついていけないので、ちょっとレベルの低い学校へ転校します。それがもう普通になっています。誰も泣いていません。学生も先生も泣いていません。恐らく親は陰で泣いていると思いますけれど。それが、日本にはないのです。勉強してもしなくても卒業できます。


ノーベル賞受賞者の秘密


私たちはノーベル賞が大好きです。ノーベル賞だけを比べて、アメリカの教育と日本の教育を評価するなと言われる方もおられますけれど、それも評価です。

ノーベル賞は、非常に大きな評価の物差しになります。日本の人口は、1億2000万少々おりますが1億2000万として、アメリカの人口は3億2000万ですので、日本の3倍としましょう。日本の人口が1億2000万でノーベル賞が22個、アメリカは3億2000万で日本の3倍ですから、人口割でいくと66個ぐらいかなと思います。ところが353個です。これは競争にもなっていない。

そうすると、アメリカで教育を受けるとノーベル賞がもらえるのかというと、はい、もらえるのです。日本でノーベル賞をもらった偉い先生方は、全員例外なく、アメリカの教育を受けている留学組です。これはどういうことですか。日本の天才は、アメリカに行かなければ天才の芽が出ないんですか? 出ないのです。

つまり、日本にいたら天才も天才じゃなくなってしまう。足を引っ張られ、横から殴られ、下手すると階段で後ろから突き落とされ、何でそんなばかな研究をやっているんだと言われ、その上、金を出さないのです。大きな違いは、アメリカはすぐれた研究者にどかっとお金を出します。1億、2億、3億、10億と億の単位で、何年かけてもいいから、これができそうだったらやってくれというのです。


学歴が意味をなさない世界


この違いは、アメリカの大学の1年生から見えます。高等学校でも見えます。高等学校で優秀な天才は、大学に行かないのです。行っても、こんなことはやっていられないというので、もたないのです。

ビル・ゲイツはハーバードを中退、私が大好きだったスティーブ・ジョブズも大学中退です。それからスタンフォードの周りに大勢いるハイテクの天才どもも、ほぼスタンフォードを中退です。すなわちアメリカは、大学を出ていなくても自分でできるものがあったら、それを評価しますから学歴なんか誰も聞きません。


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何ができるのか。何が書けるのか。私は英文科にいましたから良くわかりますが、私たちが教科書として使っていたアメリカの有名な作家たちは、高校にも行っていないですよ。下手に高校なんかに行くと、物が書けなくなる。そういう脳を解放する、自由奔放な教育は日本にはありません。中央集権的な管理教育をやると、絶対にノーベル賞はもらえません。


だから日本で、これができるんじゃないかと思われる人たちは、大抵がアメリカに留学しています。アメリカも日本の優秀な男女に目をつけていますから、アメリカにおいでと誘いに来ます。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2015年8月下旬号「大学ランキング」− 6



この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。