脚注の思想

by 岡崎匡史 May 9th, 2020

blog155.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

今日のブログは、「索引の思想」の続きです。
索引ではなく、「脚注」に焦点を当ててみたいと思います。

あなたは、「脚注」をどう感じているのでしょうか? 
「邪魔くさい、、、引用文献の羅列とコメントを誰がわざわざ読むのか」

このように思っている人も、多いことでしょう。

しかし、読書家にとって脚注こそ重要です。

私が専門書を読み始めるときは、脚注から読み込みます。脚注を読めば、どんな論旨が展開されているか想像できるからです。それから本文を読む。難解な学術書を素早く読み込むための技術です。

そして、もう一つ重要なことがあります。控えめで思慮深い著者の場合、本文ではなく脚注に「本当の真意」「伝えたい事」「大切なヒント」を書く傾向があるからです。脚注という目立たない箇所に、こっそりと「分かる人にだけ伝わって欲しい」という著者の願いが込められる。人間とは、屈折した生き物なのです、、、

スタイル


ともあれ、読み手としては脚注のルールを覚えるだけでも、読書がはかどります。

「脚注」は英語で「フットノート」(footnotes)、「文末脚注」の場合は「エンドノート」(Endnotes)と呼ばれています。

注意することは、学問の専門分野によって脚注のスタイルが変わってくる。自然科学と人文社会では、形式がだいぶ異なる。

代表的な形式に「シカゴスタイル」「APAスタイル」「MLAスタイル」などがあります。まずは、どれか一つ、自分の好みにあう形式を習得してしまうことです。重要なことは、一つの作品のなかで、脚注のスタイルをごちゃ混ぜに表記してはいけません。

実際、脚注作成には手間がかかるので、文献ソフト(EndNoteやZoteroなどが有名)まで販売されています。

読書と脚注


本屋で書棚を見回すと、「索引」と同じように「脚注」を掲載している書籍は少ない。脚注は敬遠される。これが日本の出版業界の現状です。

たとえば、翻訳本は脚注そのものが削除されていることが頻繁にあります。わざわざ脚注を訳したとしても、どうせ読者は目を通さないと思われているからです。

しかも、脚注の項目を製作するとページ数が増えて、経費がかさんでしまう。利用頻度が低い脚注に力を入れるよりも、本文を充実させて、ページ数を少なくし本の価格を抑える、という販売方法が一般的です。

というのも、脚注を丁寧に訳すことは難儀です。さまざまな文献や背景知識がないと、和訳できません。外国語の書籍のタイトル、著者の名前を和訳するだけでも骨が折れます。

つまり、面倒なところに力を入れて製作されている本であれば、当然、本文も魂を込めて執筆されているはずです。さまざまなヒントが隠されいる脚注付の書籍を敬遠するのはもったいない。

脚注からも、読書の喜びを味わえるはず。


ー岡崎 匡史

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。