将軍様のご機嫌取り

by 西 鋭夫 March 15th, 2021

拉致問題


米国人に対しては拉致しない。しかし、日本人に対しては拉致を平気で行う。この差は一体どこからやってくるのでしょう。地理は副次的なものです。答えは、核爆弾があるかどうか、実行力のある強い軍隊を持っているかどうかです。アメリカの若者が拉致されたら、米国は黙っちゃいないでしょう。なんとしてでも取り返そうと武力行使も辞さないと思います。北朝鮮はそれを十分理解しているので、米国人のことは拉致しない。

日本は北朝鮮に完全になめられています。「返せ」と言ったら、「いない」とか、「行方不明」と言った返事が返ってきます。それでもう何十年も経ちました。拉致問題は、日本と北朝鮮の関係を象徴しています。

北朝鮮が核を持ったとなると、日本はもう真っ青でしょう。何も出来ない。可能な限り北朝鮮を挑発しないようにしている。北朝鮮が原爆を使う可能性はほとんどないに等しい。撃った途端に、アメリカに潰されることが見えています。しかし、それでもなお日本は北朝鮮に強く物を言うことが出来ない。将軍様のご機嫌を損ねまいと、ビクビクしています。


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金正恩


金正恩は1983年生まれで、現在(2016年)33歳です。父親の金正日が、2011年に死去してから最高指導者の地位を継承しております。北朝鮮の建国者である金日成、そして2代目の金正日、3代目の金正恩と、現在の北朝鮮は金一族による王朝のようです。

しかし、金正恩はまだ若い。そこで彼は、自らの権力を盤石なものにするために核実験を行いました。核を持つことは、お祖父ちゃん、お父さんにも成し遂げることが出来なかった悲願でした。これを30代で実現したことは、北朝鮮の国内政治上、非常に大きな意味を持つ。

核を持ったことは、国際社会においても重要です。アラブの春では多くの独裁者が倒されましたが、仮に彼らが核を保有していたら状況は異なっていたでしょう。核兵器とはそれだけの意味を持っています。


国内政治の混乱


ただし核開発を成功させたからといって、金正恩体制に反発する勢力がいなくなるわけではありません。状況はむしろ逆で、核の重大性に鑑み、彼に核を持たせてはいけないと、国内でクーデターが起こる可能性もゼロではないと思います。

金正恩の若さも仇となるかもしれません。彼は今、精神的にも心理的にも不安定だと思います。自分にはまだ実績がなく、経験もないと自覚しているからこそ不安なのです。周りに優秀な者がいると、自分の権力を脅かすのではないかと考えます。そこで、粛清が行われるわけです。

小言を言ってくれる年配の政治家や軍人たちがいなくなると、体制は一気に弱体化していきます。その時が危ない。国内政治はもとより、北東アジア情勢全体が極度に緊張するでしょう。




西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年1月下旬号「北朝鮮の情勢」− 2




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。