シリア難民を受け入れるのか
多くの先進国が難民の受け入れを始める一方、日本は閉鎖的な状況です。法務省のデータによると、日本は2005年には384人の難民を受け入れていますが、2014年には5000人と増えました。皆さんは今後、日本がシリア難民を受け入れると思いますか。
その可能性は限りなくゼロに近い。「受け入れない」「可能性はゼロ」などというと、人道的に問題ではないか、と文句を言う人もいるでしょう。しかしそれは、現実を無視した理想論に過ぎない。
日本が1万人ほど受け入れると想定しましょう。では、入ってきた若い男性や家族をどこに連れて行きますか。東京にしますか。土地が高いから無理ですね。大阪も無理でしょう。では人が少ない地方だったら良いのでしょうか。具体的に考えていくと、どの自治体でも大反対が起こります。
覚悟はあるのか
人道上の理由から難民受け入れについて考えるのなら、それなりの覚悟が必要です。まずは仮設住宅を作る。それから生活保護も与える。これは1ヶ月の話ではなく、何年続くかわかりません。彼らの生活を必死で支えなければならない。
生活ができるようになっても、今度は日本語を勉強しなければならないし、日本文化も理解する必要が出てきます。日本文化は層が厚いので、これに溶け込むためには更なる年月がかかるでしょう。
難民たちの生活を支え、日本社会で共に生きる覚悟を、私たち日本人はしっかりと認識しているのでしょうか。誰もそこを問わない。難民たちに使う財源についてもまともな議論が聞こえてこない。これが日本の現状です。
心の壁
ヨーロッパから来た難民が日本で犯罪を起こすとどうなるか。一回の犯罪が、難民全体に対する拒否反応につながります。日本人による凶悪事件はたくさんありますが、一人の難民による一つの事件だけが、永遠と喧伝され、警鐘となって日本社会を覆うでしょう。
この意識が今日の日本を条件付けています。この社会では、日本語がパーフェクトな外国人でも苦労します。彼らは日本文化に一生、溶け込めない。
私たち日本人は、外国人を差別するのではなく、彼らと自分たちの間に薄い膜を張っているのでしょう。それは心理的なバリアとでも言えるものです。私たち日本人にとって、そのバリアは壊す必要もなければ、越える必要もありません。この膜によって、私たちは守られています。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2015年9月下旬号「難民」− 7
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。