From: 岡崎 匡史
研究室より
あなたの身の回りには、数字があふれています。
世論調査、好感度、視聴率、支持率、偏差値、満足度、達成率、顧客満足度、メタボ指数、数え上げたら切りがありません。
統計から導きだされた数字をみると、なんとなく納得してしまう。数字で示されると、論理的に説明してくれていると錯覚しがちです。
しかし、完璧な統計手法は、この世には存在しません。統計の精度を可能な限り高めることはできますが、「絶対」とは言い切れないのです。
もちろん、統計学は、数学的に経験的な法則を導きだす必須の学問です。厳密性が求められる「科学」では、統計データは欠かすことができません。ですが、あなたの身近にある広告の数字やニュース記事の統計を、そのまま信じてよいのでしょうか?
データ収集
統計学を学ぶと、注意すべき点をたたき込まれます。さまざまな数式や統計学的手法をマスターする前に、統計データを収集するときに「偏り」や「恣意性」が入らないよう最大限に気を配ることです。
無作為でデータを抽出することは当然のこと(実際には、予算など諸々の制約があるので、これがとても難しい)。ともあれ、できるかぎりの力を尽くして統計の「信頼性」を高めようとします。統計に瑕疵(かし)があると、これまでの努力が無に帰してしまいますし、エビデンスとして用をなさなくなってしまう。
データの収集方法でも、気をつけるべきことは多々あります。しかし、この気をつけるべきことを悪用して、もっともらしい統計が創作されがちです。
もし、あなたが「この統計、ホントなのかな?」と思ったとき、どこに注意を向ければよいのか。それは、データの収集・調査方法です。
統計操作
統計データを集めるときに行われる方法に、電話によるアンケート調査があります。電話帳から無作為に選んで、電話をしてデータサンプルを集める。しかし近年では、固定電話の保有率は減少しております。固定電話の保有率は、高齢世帯が多い。
電話をする時間帯も考えてみましょう。朝に電話をするか、昼に電話をするか、それとも夜なのか。平日か休日かも、大事なことです。平日の昼間に固定電話でアンケートをして、回答する人の年代と性別は、容易に想像できます。
テレビを見ていると街頭インタビューの画面が映しだされることがあります。休日と平日では、街頭で歩いている人は違います。休日であったら、親子連れ。平日であったら、サラリーパーソン。都会なのか、それとも、農村部なのか。その日の天候によっても、左右されます。
インタビューをする場所も重要です。もし、健康食品に関するアンケートをスポーツジムで採ったとしましょう。健康を意識している人たちが回答しているので、健康食品会社が望んでいるようなデータを集めることができます。同じ質問を、定食屋やコーヒーチェーン店などで行ったら、全く違うデータ結果になることでしょう。
これらの例が示しているように、データの収集方法を意図的に選別して、統計操作が行われる。統計の計算方法は間違っていないし、嘘をついている訳でもない。まして、データを改竄した訳でもない。表面上は立派に見えて、説得力のある統計結果が出来上がるのです。
マスコミや企業の統計データに騙されないためには、データの収集方法にまず気を配る。そうすれば、統計を頭ごなしに信じることなく、割り引いて考えるインテリジェンス能力が身についてきます。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・Alan Agresti and Barbara Finlay. 1997. Statistical Methods for the Social Sciences (3rd Edition), New Jersey: Prentice Hall.
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。