民間憲法草案

by 西 鋭夫 May 6th, 2018

【和文史料】

憲法研究会の憲法草案要綱

(昭和20年12月27日発表)

高野岩三郎、馬場恒吾、杉森孝次郎、森戸辰男、岩淵辰雄、室伏高信、鈴木安蔵

根本原則(統治権)


一、日本国ノ統治権ハ日本国民ヨリ発ス

一、天皇ハ国政ヲ親ラセス国政ノ一切ノ最高責任者ハ内閣トス

一、天皇ハ国民ノ委任ニヨリ専ラ国家的儀礼ヲ司ル

一、天皇ノ即位ハ議会ノ承認ヲ経ルモノトス

一、摂政ヲ置クハ議会ノ議決ニヨル

国民権利義務


一、国民ハ法律ノ前ニ平等ニシテ出生又ハ身分ニ基ク一切ノ差別ハ之ヲ廃止ス

一、爵位勲章其ノ他ノ栄典ハ総テ廃止ス

一、国民ノ言論学術芸術宗教ノ自由ニ妨ケル如何ナル法令ヲモ発布スルヲ得ス

一、国民ハ拷問ヲ加へラルルコトナシ

一、国民ハ国民請願国民発案及国民表決ノ権利ヲ有ス

一、国民ハ労働ノ義務ヲ有ス

一、国民ハ労働ニ従事シ其ノ労働ニ対シテ報酬ヲ受クルノ権利ヲ有ス

一、国民ハ健康ニシテ文化的水準ノ生活ヲ営ム権利ヲ有ス

一、国民ハ休息ノ権利ヲ有ス国家ハ最高八時間労働ノ実施勤労者ニ対スル有給休暇制療養

  所社交教養機関ノ完備ヲナスヘシ

一、国民ハ老年疾病其ノ他ノ事情ニヨリ労働不能ニ陥リタル場合生活ヲ保証サル権利ヲ有

  ス

一、男女ハ公的並私的ニ完全ニ平等ノ権利ヲ享有ス

一、民族人種ニヨル差別ヲ禁ス

一、国民ハ民主主義並平和思想ニ基ク人格完成社会道徳確立諸民族トノ協同ニ努ムルノ義務ヲ有ス

議 会


一、議会ハ立法権ヲ掌握ス法律ヲ議決シ歳入及歳出予算ヲ承認シ行政ニ関スル準則ヲ定メ

  及其ノ執行ヲ監督ス条約ニシテ立法事項ニ関スルモノハ其ノ承認ヲ得ルヲ要ス

一、議会ハ二院ヨリ成ル

一、第一院ハ全国一区ノ大選挙区制ニヨリ満二十歳以上ノ男女平等直接秘密選挙(比例代

  表ノ主義)ニヨリテ満二十歳以上ノ者ヨリ公選セラレタル議員ヲ以テ組織サレ其ノ権

  限ハ第二院ニ優先ス

一、第二院ハ各種職業並其ノ中ノ階層ヨリ公選セラレタル満二十歳以上ノ議員ヲ以テ組織

  サル

一、第一院ニ於テ二度可決サレタル一切ノ法律案ハ第二院ニ於テ否決スルヲ得ス

一、議会ハ無休トス

  ソノ休会スル場合ハ常任委員会ソノ職責ヲ代行ス

一、議会ノ会議ハ公開ス秘密会ヲ廃ス

一、議会ハ議長並書記官長ヲ選出ス

一、議会ハ憲法違反其ノ他重大ナル過失ノ廉ニヨリ大臣並官吏ニ対スル公訴ヲ提起スルヲ

  得之カ審理ノ為ニ国事裁判所ヲ設ク

一、議会ハ国民投票ニヨリテ解散ヲ可決サレタルトキハ直チニ解散スヘシ

一、国民投票ニヨリ議会ノ決議ヲ無効ナラシムルニハ有権者ノ過半数カ投票ニ参加セル場

  合ナルヲ要ス

内 閣


一、総理大臣ハ両院議長ノ推薦ニヨリテ決ス

  各省大臣国務大臣ハ総理大臣任命ス

一、内閣ハ外ニ対シテ国ヲ代表ス

一、内閣ハ議会ニ対シ連帯責任ヲ負フ其ノ職ニ在ルニハ議会ノ信任アルコトヲ要ス

一、国民投票ニヨリテ不信任ヲ決議サレタルトキハ内閣ハ其ノ職ヲ去ルヘシ

一、内閣ハ官吏ヲ任免ス

一、内閣ハ国民ノ名ニ於テ恩赦権ヲ行フ

一、内閣ハ法律ヲ執行スル為ニ命令ヲ発ス

司 法


一、司法権ハ国民ノ名ニヨリ裁判所構成法及陪審法ノ定ムル所ニヨリ裁判之ヲ行フ

一、裁判官ハ独立ニシテ唯法律ニノミ服ス

一、大審院ハ最高ノ司法機関ニシテ一切ノ下級司法機関ヲ監督ス

  大審院長ハ公選トス国事裁判所長ヲ兼ヌ

  大審院判事ハ第二院議長ノ推薦ニヨリ第二院ノ承認ヲ経テ就任ス

一、行政裁判所長検事総長ハ公選トス

一、検察官ハ行政機関ヨリ独立ス

一、無罪ノ判決ヲ受ケタル者ニ対スル国家補償ハ遺憾ナキヲ期スヘシ

会計及財政


一、国ノ歳出歳入ハ各会計年度毎ニ詳細明確ニ予算ニ規定シ会計年度ノ開始前ニ法律ヲ以

  テ之ヲ定ム

一、事業会計ニ就テハ毎年事業計画書ヲ提出シ議会ノ承認ヲ経ヘシ

  特別会計ハ唯事業会計ニ就テノミ之ヲ設クルヲ得

一、租税ヲ課シ税率ヲ変更スルハ一年毎ニ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ

一、国債其ノ他予算ニ定メタルモノヲ除ク外国庫ノ負担トナルヘキ契約ハ一年毎ニ議会ノ

  承認ヲ経ヘシ

一、皇室費ハ一年毎ニ議会ノ承認ヲ経ヘシ

一、予算ハ先ツ第一院ニ提出スヘシ其ノ承認ヲ経タル項目及金額ニ就テハ第二院之ヲ否決

  スルヲ得ス

一、租税ノ賦課ハ公正ナルヘシ苟モ消費税ヲ偏重シテ国民ニ過重ノ負担ヲ負ハシムルヲ禁

  ス

一、歳入歳出ノ決算ハ速ニ会計検査院ニ提出シ其ノ検査ヲ経タル後之ヲ次ノ会計年度ニ議

  会ニ提出シ政府ノ責任解除ヲ求ムヘシ

  会計検査院ノ組織及権限ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

  会計検査院長ハ公選トス

経 済


一、経済生活ハ国民各自ヲシテ人間ニ値スヘキ健全ナル生活ヲ為サシムルヲ目的トシ正義

  進歩平等ノ原則ニ適合スルヲ要ス

  各人ノ私有並経済上ノ自由ハ此ノ限界内ニ於テ保障サル

  所有権ハ同時ニ公共ノ権利ニ役立ツヘキ義務ヲ要ス

一、土地ノ分配及利用ハ総テノ国民ニ健康ナル生活ヲ保障シ得ル如ク為サルヘシ

  寄生的土地所有並封建的小作料ハ禁止ス

一、精神的労作著作者発明家芸術家ノ権利ハ保護セラルヘシ

一、労働者其ノ他一切ノ勤労者ノ労働条件改善ノ為ノ結社並運動ノ自由ハ保障セラルヘシ

  之ヲ制限又ハ妨害スル法令契約及処置ハ総テ禁止ス

補 則


一、憲法ハ立法ニヨリ改正ス但シ議員ノ三分ノ二以上ノ出席及出席議員ノ半数以上ノ同意

  アルヲ要ス

  国民請願ニ基キ国民投票ヲ以テ憲法ノ改正ヲ決スル場合ニ於テハ有権者ノ過半数ノ同

  意アルコトヲ要ス

一、此ノ憲法ノ規定並精神ニ反スル一切ノ法令及制度ハ直チニ廃止ス

一、皇室典範ハ議会ノ議ヲ経テ定ムルヲ要ス

一、此ノ憲法公布後遅クモ十年以内ニ国民授票ニヨル新憲法ノ制定ヲナスヘシ

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。