アイデンティティ
地図とは、私たちの国民性に非常に大きな影響を与えるものです。それはいわば、私たちのアイデンティティそのものであると言ってよいでしょう。皆さん、日本の形を頭の中でイメージして欲しいのですが、地図を実際に見なくともほとんどの方がその形を想像できると思います。自分が暮らす都道府県の形もなんとなく分かりますし、市町村の位置もイメージすることができるはずです。
日本という国を意識するとき、その国の形を示した地図は、国旗や国歌と同じくらいに私たちのアイデンティティにとって欠かせないものなのです。
これをGHQは戦後教育の中で取り上げたわけです。地理などもう勉強するな、ということです。彼らが何をしようとしたのか、もうお分かりでしょう。日本という国の形を、そして私たちの日本人としての意識を変えようとしたわけです。その意図がありありと見えてきます。
道路建設
マッカーサーが次に行ったことは、日本全土の道路づくりです。マッカーサーがこだわったのは、広い道路を作らせないことでした。もっとも、最初は広い道路を作ろうとしたらしいのですが、山や谷が幾重にも重なる日本の地理を見て、それがいかに難しいか、どれだけ費用がかかるか、痛感したようです。
そこで注目したのが五街道です。これを中心に、他の道はそこに連結させる形でどんどんと作っていきました。そのため、私たちは今でも東海道や奥州街道、中山道など、江戸時代から使われている道の名前を使っています。
アメリカやヨーロッパにおける道路と大きく違うのは、その幅だけでなく、緻密さや複雑さだと思います。東京や大阪といった大都市でありながら、くもの巣のように道が張りめぐされております。
勝敗の決め手
戦争中においても地図は貴重です。どれだけ精緻に、正確に作られているかは戦略、戦術を決定する際に極めて重要なものです。すなわち地図とは、勝敗を決するものであり、兵隊たちの生死にかかわるものでした。
戦地に赴く指揮官たちは例外なく地図を持っておりました。実際、日米大戦時、米国は日本の地理を徹底的に研究しています。上陸地とされた砂浜の砂に関する研究も行っております。当時、米軍が使っていた硫黄島の地図が残されていますが、あんなに小さい島でも、どこに入り江があって、どこに洞窟があってと、全て網羅的に調べられています。
西鋭夫のフーヴァーレポート
国土復興と防衛(2020年3月上旬号)-7
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。