憧れ
「武士道」という言葉は英語になっていますが、アメリカの若い人もお年寄りたちも武士道に対する憧れを持っています。幻想と言えば幻想かもしれませんが、それはかなり強い憧れです。
武士道には、アメリカ人が求めて止まない肉体的な強さと精神的な強さの二つが体現されているのでしょう。アメリカ人たちは「強さ」が好きなのです。武士道の中に、自分たちの知らない強さを見出しているのだと思います。
そのことを最近感じたのはトム・クルーズ主演で、渡辺謙も出演している「ラストサムライ」という映画です。日本でも大ヒットしましたが、アメリカでも大ヒットでした。私は2度ほど見ましたが、あの中で監督が描こうとしていたのは武士道の美学です。それは、死ぬことに美学を見出した武士たちの姿です。
トム・クルーズはあの映画で武士道に目覚めたようです。切り合いのシーンについては1年かけて猛練習したと語っていました。
七人の侍
私がアメリカに来たのは1964年ですが、同じようにアメリカ人たちが熱狂したことがありました。黒澤明監督の映画です。私がいたワシントン大学の近くの劇場は、100名ほどしか入りませんでしたが、黒澤映画の回は常に満員でした。
上映された映画の中に「七人の侍」がありました。アメリカでも大絶賛されたものです。私はアメリカで初めて「七人の侍」を見ました。戦後すぐの映画です。「黒澤明、こいつは天才だ」と圧倒されたのを覚えています。2時間半ぐらいの長い白黒映画ですが、終了後は若い大学生らが総立ちで、拍手喝采でした。会場は割れんばかりのスタンディングオベーションに包まれました。
正義
私はその当時、一人しかいないほど珍しい日本人でしたから、質問攻めに合いました。しかし答えられない。だからもう1度見なければなりませんでした。
あの映画の凄さは一言ではもちろん語ることは出来ませんが、観衆の心を打ったのは、自身の正義や生き方を貫く侍と農民の姿でしょう。侍は戦争が終わったことで浪人になり、食い扶持を探している。しかしプライドは絶対に捨てない。一方の農民は一生懸命に米を作る。しかし、野盗に米を巻き上げられ、女を捕らえてしまった。「助けてくれ、飯だけは食わせてやる」と、農民は浪人に頼むわけです。
武士と水飲み百姓の葛藤が丁寧に描かれている。それぞれが持っている正義や美学が見事に映し出されております。武士たちはいかにして死ぬ場所を見つけるのか。そのことも力強く描かれています。
よく知られた話ではありますが、若き日のジョージ・ルーカスはこの映画に感動し、大きな刺激を受けたようです。
西鋭夫のフーヴァーレポート
武士道と外交(2018年2月下旬号)-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。