20億円の島
中国が尖閣諸島に対して活発な行動を開始したのは2012年以降です。引き金は、日本政府による尖閣諸島の国有化でした。これは不思議な出来事でした。最初に石原都政がこの島を買おうとして、募金を募っていた。しかし、その過程で突如、野田政権が入ってきた。
尖閣諸島は個人の所有物でした。そもそも、なぜあんなところを個人が持っているのか。これもよく解明されておりません。また、その人が石原慎太郎さんとどういう関係にあったのかもわかりません。その人は石原さんの政治理念に賛同していたのかもしれません。それで、台湾も中国も領有権を所有し始めたので、極右の石原さんに買ってもらいたかったのかもしれません。
これを聞きつけた石原都知事は購入のための募金を募り始めます。すると、余るほどのお金がワッと集まりました。そこに割って入ってきたのが当時の民主党政権で、「都が買うのは良くない」と言い、国が買うと言い出して20億円以上のお金を出した。それにより、尖閣諸島が国有化された。
国有化の謎
私はここに大小様々な疑問があります。まず質問したいのは、野田政権が用意した20億円は誰のお金かということです。税金で買ったのでしょうか。もし税金であれば、私たちへの説明はあったのかどうかも問われないといけない。
石原都知事が集めた莫大な寄付額、それは何十億円と言われていますが、それがどこへ消えたのかも私たちは知らされていません。土地の売買過程で生じる税金関係がどうなったのかどうかもわかりません。莫大なお金が動いているはずです。
最大の謎は、なぜ野田政権がここに出てきたのか、ということです。日本には公文書をきちんと保存する習慣がないので、この真相は永遠に分からないかもしれない。
中国の立場
私は中国を応援するつもりはありません。しかし、個人が持っていたものを、石原都知事が名乗りをあげ、次いで野田政権が名乗りを上げて購入するという経緯を、中国は目の前でやられた。
中国国民は大激怒でしょう。中国政府は動かざるを得なくなりました。これまでは日本人のおっちゃんが持っていて、別に開発するわけでもなし、魚を獲るわけでもなかった。これは俗に言えば、「いい格好で、棚上げ」になっていたわけです。問題にしなくてもよかった。もしこの個人が日本企業でも連れてきて開発でもしようものなら、中国は自分たちもお金を出すから一緒にやろう、とそんな計画もあったかもしれない。しかし、個人ではなく、極右の石原氏が出てきて、最後には国有化という流れになった。
中国の立場からすると、尖閣諸島におけるさまざまな選択肢を握りつぶす暴挙、と映ったのではないかと思います。話し合いで解決できる可能性が非常に小さくなった。それを野田政権はやってしまった。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2016年6月下旬号「尖閣諸島の情勢」-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。