ウォーター・バロン
人間の生命とその活動を支配する水を確保するために、国やグローバル企業が、熾烈な水争いを繰り広げております。その中で、フランスのスエズ社とヴィヴェンディ社、英国のテムズ・ウォーター社は、世界の水男爵、すなわちウォーター・バロンと呼ばれております。
これらの会社は、世界各国・地域に出向き、水が汚いところを見つけては「きれいにしてあげるよ」と話しました。実際、その水はきれいに、そして飲むことができる水になりました。現地の人たちは大喜びです。
しかしここからが問題だった。これまではただ同然で手に入れていた水に、3〜5倍の値段をつけたわけです。現地の人には手が出せなくなりました。自分たちの水源が、開発された結果として、自分たちで使えなくなった。これは悲劇です。外国資本はその水を、今度は国外の市場に持ち出し、売り出しました。
水インフラ
水があるところでは、水そのものも重要ですが、水に関するあらゆるインフラ設備の設置と管理も大切です。これには莫大なコストがかかるので、水の値段はさらに高騰します。
水道施設については、戦時国際法の中でも、わざわざ文章にて「攻撃してはいけない」、と書かれてあります。ジュネーブ条約です。これをどの国も守っていないのは明らかですが、戦時中の約束として記されている点は記憶に留めて良い。それほどまでに、水とそのインフラが大切であると強調されているからです。
権力の象徴
水はまさに権力の象徴と言えます。それは生命の源であり、人間のあらゆる活動にとって不可欠なものです。ゆえに、水源をおさえて、水インフラを整えるということは、その場所や地域、国の支配権を握るということでもあります。
ウォーター・バロンたちは、国の力をはるかに超え、将来非常に大きなパワーを持つことになるのではないかと思います。
日本の水道は100%に限りなく近い安全な水づくりに成功しているため、外国資本が殺到することはないでしょう。それでもなお、国は国民一人一人の生活と、エネルギー安全保障という観点から、水研究、水源調査に励みながらも、外国資本の水源利用に何か抵抗していかないといけない。何も対策をしないでいると、日本の素晴らしい山林があっという間に失われるでしょう。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2016年2月下旬号「水戦争」− 6
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。