真の狙いとは
2016年1月6日、北朝鮮は地下核実験を実施しました。北朝鮮の最高指導者金正恩は、水爆実験に成功したと発表しました。金正恩は「アメリカ帝国が核を自らの独占物と見なし、我々を恐喝していた時代は永遠に終わった。今度は我々が、米国にとっての最大の脅威となっている」と述べております。この地下実験が本当に成功したのか、失敗したのかは分かりません。しかし、北朝鮮の周辺国である日本、中国、韓国に突きつけられた問題は大きい。
今回の実験の目的の一つは、北朝鮮が自分の存在感を世界中に見せつける、ということでした。核実験の前の主要メディアの様子を見てみると、その大きな話題は中東と難民でした。アジアには誰も目を向けておりません。アメリカは中東問題に必死でした。
そんな中、北朝鮮が核実験を行った。しかも水爆との噂がある。世界中の目が、一気に北朝鮮に向かった。金正恩は自分の存在感を大いに示すことができたわけです。
核兵器
核開発というのは、国力増強を念頭に行うならば、秘密裏にした方が圧倒的に効果的です。表沙汰になると、監視の目が厳しくなります。しかし今回、北朝鮮は大々的に核実験について広報した。
北朝鮮の真の狙いは、第二次世界大戦の戦勝国だけが核兵器を独占できる、という状況を終わらせることであり、また米国との平和条約の締結にあったのでしょう。後者についてはとりわけ、金体制の存続を保証するものとなります。
米国との間できちんとした条約関係を結ぶためには、弱体国家や脆弱国家では不十分です。このことを金正恩は正確に理解している。それゆえ北朝鮮は、国の国際的なステータスをあげたいと考えたのではないか。
戦略的威嚇
とはいえ、北朝鮮の経済や社会状況は安定しておらず脆弱です。経済力からすると小国です。ゆえに北朝鮮は、宥和的な政策と国際社会への威嚇を幾度となく繰り返し、その度に国際社会からの資金やエネルギー提供を引き出してきました。北朝鮮は、2000年代には2回(06年、09年)、2010年代にも2回(13年、16年)と、およそ3年おきに核実験を行なっていますが、それはいわば戦略的な威嚇外交と言えます。これは、北朝鮮が存続する限り、基本的には永遠に続きます。
日本は北朝鮮の核実験に対して強く反対することは出来ません。一時的な批判は言えても、「断じて許さない」という立場を貫くことができない。日本国内にはまた別な勢力があるのでしょうか。拉致されているのに、強く物を言えない日本は、国際社会の笑い者です。
アメリカのお嬢ちゃん、僕ちゃんがもしカリフォルニアのビーチやハワイから誘拐され、北朝鮮にいることが分かったら、アメリカは黙っていない。返せと言って返さなかったら、攻撃するでしょう。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2016年1月下旬号「北朝鮮の情勢」− 1
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。