From: 岡崎 匡史
研究室より
教科書論争で紹介したように、マッカーサー元帥はキリスト教だけは「信教の自由」の枠外だと考えていました。
マッカーサーのキリスト教への特別視は、「言論・出版の自由」にまで及びます。
マッカーサーは『カトリック・ダイジェスト』(Catholic Digest)が日本で読まれ、普及することを切望していた。
しかし、出版許可を管轄するGHQの民間情報教育局(CIE)は日本語版『カトリック・ダイジェスト』の出版許可を出さなかった。
カトリック・ダイジェスト
なぜ、民間情報教育局(CIE)は『カトリック・ダイジェスト』の出版を許可しなかったのか?
民間情報教育局(CIE)は、「出版活動の自由は、公平に、すべての組織、団体に対して認められなければならない」という規定に忠実に従っていた。『カトリック・ダイジェスト』を許可すれば、「共産主義たちは同じ権利を自分たちにも認めろと主張してくるにちがいない」と見通していたので、カトリックだけを贔屓(ひいき)にしなかったのである。
だが、マッカーサーはこの処置に大激怒。「カトリックであろうと、共産主義であろうと、言論は自由でなければならない。まるで言論統制と同じではないか」と怒鳴りつけた。マッカーサーは、通達文書にこだわるのなら「それを変えろ」「屁理屈をならべ立てるのもいいかげんにしろ」と、有無を言わせなかったのである。
マッカーサーが強引に意見を通したことから、『カトリック・ダイジェスト』は、1948(昭和23)年3月に日本で販売されることになった。
感動したマッカーサーは、「私は本当の民主主義は、精神的基盤があって存立することができると絶対に確信している。それは、個人と社会がキリスト教概念にしっかりと依拠すれば持続するであろう」と喜び、日本の民主主義化がまた一歩前進したと信じた。
成果の水増し
マッカーサーは演説の準備のため、「戦前と戦後の日本のキリスト教信者数を報告せよ」とCIEに求めてきたことがある。
CIE宗教課職員ウォルター・ニコラスが調査に乗り出す。ニコラスは、「日本には戦前20万人のクリスチャンがいたが、現在では2万人」であると、上司に報告。ところが、「この数では足らない」と報告書を突き返されてしまった。頭にきたニコラスは、マッカーサーを満足させるために「ゼロをいくつか加えて」提出した。
事実、1947(昭和22)年2月にマッカーサーがアメリカ議会に占領政策を説明したメッセージが残っている。そこには、「日本人の過去の信仰が崩壊したことで生まれた精神的空白をキリスト教が埋めつつあり、その数は200万人を超えている」と、水増しされた改宗者数が報告され、マッカーサーの成果が誇示された。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・朝日ソノラマ編集部『マッカーサーの涙』(朝日ソノラマ、1973年)
・ハリー・レイ「ハリー・レイ オーラル・ヒストリー・シリーズ ウィリアム・ケネス・バンス」『戦後教育史研究』No.21、2007年
・"Message from General Douglas MacArthur Expressing Pleasure with the First Issue of Catholic Digest in Japanese," 22 March 1948, Douglas MacArthur Collection, MacArthur Memorial Library, VA, RG-25, Reel 960, Box 1.
・Bowers, Faubion. 1960. The Reminiscences of Faubion Bowers, Oral History Research Office Columbia University, Columbia University Oral History Collection, New York, USA.
・Supreme Commander for the Allied Powers (SCAP). 1949. Political Reorientation of Japan, September 1945 to September 1948. Vol.2. Washington DC: U.S. Government Printing Office.
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。