GHQの大学処分

by 岡崎匡史 November 7th, 2020

blog182.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

マッカーサー元帥は、キリスト教系の大学に気を配っていた。
しかし同時に、GHQの命令によって廃校になった大学もあります。

1945(昭和20)年12月15日、GHQから「神道指令」が発令され、軍国主義・超国家主義の解体へと向かった。「神道指令」は、さまざまな規制や禁止事項を日本政府に命じました。

具体的には、、、

(1)国や地方公共団体、公務員などが、神道を保護することの禁止
(2)神社ならびに神道に対する公的機関の経済的援助の禁止
(3)公立機関の教育機関が、神道の教義を広めることの禁止
(4)神祇院の廃止
(5)『国体の本義』『臣民の道』の配布禁止
(6)「大東亜戦争」「八紘一宇」などの国家神道・軍国主義を連想させる言葉を公文書で使用することの禁止
(7)国公立の学校、あるいはその職場に神棚を設置することの禁止
(8)公務員や一般市民、学生などが公の資格で神社や神道儀式に参拝することの禁止

神道系大学の処分


1882(明治15)年、久邇宮朝彦親王(くにのみや あさひこしんのう・1824〜1891)の命旨によって設立された三重県伊勢の神宮皇學館大学。建学精神を「皇国ノ道義ヲ講ジ、皇国ノ文学ヲ修メ、之ヲ実際ニ運用セシメ、以テ倫常ヲ厚ウシ、文明ヲ補ハントスルニ在リ」と掲げていた。

GHQは、神宮皇學館大学の存在を見過ごすことはできない。神道の研究調査、皇学研究、神官の養成を目的とする官立の神宮皇學館大学は、「神道指令」で禁止した「神道教育を目的とする教育機関を国の費用で経営すること」に抵触したからです。

1946(昭和21)年3月31日をもって、神宮皇學館大學は63年間の歴史に幕を閉じた。1962(昭和37)年4月、首相を務めた吉田茂(1878〜1967)が神宮皇學館大学の総長となって再建します。

国体の講明


神宮皇學館大学と双璧をなし、「国体の講明」を建学の精神としている國學院大學も、「国体」という言葉に敏感なGHQからすれば当然調査の対象でした。

1945(昭和20)年12月3日から翌年5月14日まで5回にわたって、GHQ係官が授業内容を調査。國學院大學は私立大学なので廃校の危機からは免れたが、佐佐木行忠学長、河野省三前学長が追放。神道関係の教授では、小野祖教、岸本芳雄などが教職追放された。

戦前の日本で「滝川事件」や「天皇機関説事件」で、「学問の自由」が国家権力によって侵害された歴史と、GHQの「学問の自由」を確保するための大学介入は皮肉な出来事である。

「神道指令」の直接の適用によって廃校が決定的になったのは、官立の神宮皇學館大学だけに留まる。しかし、国策に迎合した研究機関や神道系の講座は、GHQの有無を言わさぬ圧力の前に、自己改革を促される。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・國學院大學八十五年史編纂委員会『國學院大學八十五年史』(國學院大學、1970年)
・神社新報社編『神道指令と戦後の神道』(神道新報社、1971年)
・山本礼子『米国対日占領下における「教職追放」と教職適格審査』(学術出版会、2007年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。