対中包囲網

by 西 鋭夫 November 9th, 2020

ドゥテルテ大統領の思惑


フィリピンに大きな注目が集まっております。今年(2016年)の7月にフィリピン大統領に就任したドゥテルテ氏は、中国を訪問し、「米国と決別する」と発言しました。

中国による領土拡張主義的な外交戦略に対抗する上でも、アジア・太平洋地域の安全保障にとっても、フィリピンは非常に重要な役割を担ってきました。それを、新たに誕生したドゥテルテ大統領が覆そうとしている。

トランプ政権がこれを放っておくわけがない。フィリピンが「ノー」と言えない様々な条件をつけながら、積極的に介入するでしょう。フィリピンだけでなく、韓国にも、そして日本にも大きな圧力をかけてくると思います。

トランプ氏が考えているのは、アジアにおいて中国を孤立させることです。彼の言葉の中に出てくる中国は、いつも悪者です。例えば、「中国は貿易で莫大な金を儲けている」「元を安くして、中国製品を世界中で売りまくっている」「安価な中国製品のためにアメリカの物づくりは潰された」など、挙げようと思えばきりがありません。玄人ビジネスマンのトランプ氏ですから、中国のやり方がいかに狡いか、手に取るようにわかるのでしょう。


ブロック経済


中国経済の成長の背景には、「グローバル化」や「国際化」の動きがあります。オバマ政権はこの美辞麗句に踊らされ、8年もの間、アメリカが蓄えてきたものをほとんど使い切りました。その結果、国民はどんどんと貧しくなった。

トランプ政権はオバマ政権とは真逆の政策をとっていくでしょう。端的に言えば、安価な中国製品には高い関税をかけることになると思います。例えばですが、1ドルで来た中国製品には2ドルの、10ドルで来たものには20ドルの税金をかける。そうすると、中国製品は売れませんね。中国産はとことん締め出し、米国の国内産業を守る、という発想です。

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「TPPなんぞ、やっていられない」の世界です。トランプ政権はTPP交渉からすぐに離脱すると思います。


強いアメリカをもう一度


アメリカ・ファーストを唱えるトランプ氏を、多くのメディアは「自国中心主義」とか「身勝手」だとか散々批判していますが、彼の政策を支持する人々についてはほとんど報道されていません。

トランプ氏が実現しようとしていることは、まずは「税金を払っている人たちを救う」ということです。米国にお金を納めていない他国民のためではなく、米国民にまずは手を差し伸べるということです。彼は自分を「アメリカの一番の愛国者」であり、「皆さんのためだけに一肌脱ぎ、命をかけるよ」と堂々と言います。ヒラリー氏には無理でしょう。彼女は何よりも世界各国の平等や、政治・経済のグローバル化を目指すわけですから。米国が一番大事などとは口が裂けても言えない。

トランプ氏はまた、米国民のための強い軍隊を作り、質の高い教育の拡充を目指しています。圧倒的に強大・強力な軍隊を持つ国には、誰も歯向かおうとしません。「世界の皆さん、仲良くしましょう」ではなく、世界に抜きんでた軍事力を保持することで米国の安全保障を実現しようとするわけです。教育行政についても、ワシントンD.C.の役人たちの権限をバッサリと切り捨てるでしょう。質の高い教育作りに向け、地方政府に大きな権限を持たせることになると思います。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年11月上旬号「大統領選挙速報」− 6



この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。