From:岡崎 匡史
研究室より
アメリカ空軍爆撃手ポール・W・ティベッツが操縦したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」は、ローマ・カトリック教の司祭に祝福されて太平洋のテニアン島から飛び立った。
1945(昭和20)年8月6日、「リトル・ボーイ」と名づけられた原子爆弾が広島市上空で炸裂した。推定死傷者、20万人。
投下候補都市
原子爆弾を投下する候補都市には、京都、広島、小倉、長崎、横浜、新潟などが挙げられていた。京都は日本人に精神的衝撃を与えるには「絶好の標的」とされた。
しかし、ヘンリー・L・スティムソン陸軍長官からハリー・S・トルーマン大統領への助言と強い反対により、アメリカ軍は京都の歴史的・文化的重要性を考慮し、美しい京都を原爆投下候補都市から除外した。
同様に、新潟は規模が小さく、飛行時間がかかるので除かれた。天皇陛下の住居である江戸城跡の皇居は、混乱を避けるため攻撃候補から外されていた。
キリスト教会連盟の抗議
米国は昭和天皇のお住まいである皇居については細心の注意を払っていたが、8月9日、英国首相チャーチルにちなんで名付けられた原子爆弾「ファット・マン」が、カトリックの聖地「長崎」に投下された。
推定死者、7万4000人。
「ファット・マン」は、小倉に投下される予定だったが、当日の小倉市街上空は雲海に覆われていたため、第二目標の長崎が爆心地となった。
同日、アメリカ・キリスト教会連盟は、原爆投下に対してトルーマン大統領に抗議の電報を打った。
「多くのキリスト教徒は、日本の都市に対する原子爆弾の使用に深く心を痛めております。なぜなら、原爆の使用は必然的に無差別破壊をもたらし、人類の未来にとって極めて危険な前例となるからです。連盟会長オクスナム主教と同連盟の恒久的平和委員委員長ジョン・F・ダレスは、報道向けの声明を準備しており、明日、次のことを強く主張するつもりです。
原爆は人類に託されたものと見なすべきであり、日本国民に対して新型爆弾に関する事実を確認させ、降伏条件の受諾に十分な機会と時間が与えられるべきであること。そして、日本国民にこれ以上の原爆による破壊がもたされる前に、日本が最後通牒について考え直す十分な機会が与えられることを謹んで要請致します。」
人種差別
トルーマンはこのアメリカ・キリスト教会連盟の要望に対して、8月11日、回答した。
「8月9日付の電報を頂き感謝いたします。私ほど原爆の使用に心を痛めている人間はいません。しかし、私は日本の宣戦布告なき真珠湾攻撃と戦争捕虜の虐殺にも非常に心を痛めました。日本人が理解する唯一の言葉というのは、私たちが日本人に対して原爆投下をすることのように思えます。獣(beast)と接するときは、それを獣として扱わなければなりません。非常に残念なことでありますが、それが真実です。」
トルーマンは日本人を「獣」と譬え、「人種差別」をむきだしにして原爆投下を正当化した。
トルーマンの言葉を裏打ちするかのごとく、最大出力2300馬力、強力なエンジン4機を搭載したアメリカ軍の大型長距離爆撃機B29の編成隊がくりなした「絨毯爆撃」で、すべての都市が攻撃の対象にされた。
日本全国の宗教施設のうち神道3701神社、仏教4430寺院、キリスト教607教会が損壊した。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・有馬哲夫『アレン・ダレス 原爆・天皇制・終戦をめぐる暗闘』(講談社、2009年)
・山極晃「原爆投下目標の決定」『国際問題』日本国際問題研究所、第234号、1979年
・GHQ/SCAP『GHQ 日本占領史 第21巻 宗教』(日本図書センター、2000年)
・ "Memorandum For: Major General L.R. Groves, Subject: Summary of Target Committee Meetings on 10 and 11 May 1945." 12 May 1945, Harry S. Truman Vertical File, Harry S. Truman Library, Missouri, USA.
・"Correspondence between Harry S. Truman and Samuel Cavert," 11 August 1945, Harry S. Truman Official File, Harry S. Truman Library, Missouri, USA.
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。