極秘電報が天皇を救う
ソ連、中国、イギリス、オーストラリアは、天皇を戦犯として裁くことを要求している。アメリカ国内でも、政府内でも、天皇を戦犯として裁いたほうが良いという意見が強くなってきている。
トルーマン大統領は、1945年10月18日の記者会見で、「日本国民が自由な選挙で天皇の運命を決定する機会を与えられるのは良いことだと思う」と言った。
1946年1月25日、マッカーサーは、陸軍省宛に3頁にびっしりと文が詰まっている極秘電報を打った。この電報が天皇の命を救う。
「天皇を告発すれば、日本国民の間に想像もつかないほどの動揺が引き起こされ るだろう。その結果もたらされる事態を鎮めるのは不可能である」「天皇を葬(ほ うむ)れば、日本国家は分解する」
連合国が天皇を裁判にかければ、日本国民の「憎悪と憤激は、間違いなく未来永 劫に続くであろう。復讐のための復讐は、天皇を裁判にかけることで誘発され、 もしそのような事態になれば、その悪循環は何世紀にもわたって途切れることな く続く恐れがある」
「政府の諸機構は崩壊し、文化活動は停止し、混沌無秩序はさらに悪化し、山岳 地域や地方でゲリラ戦が発生する」「私の考えるところ、近代的な民主主義を導入 するという希望は悉(ことごと)く消え去り、引き裂かれた国民の中から共産主 義路線に沿った強固な政府が生まれるだろう」
そのような事態が勃発した場合、「最低100万人の軍隊が必要であり、軍隊は永 久的に駐留し続けなければならない。さらに行政を遂行するためには、公務員を 日本に送り込まなければならない。その人員だけでも数10万人にのぼることに なろう」。
陸軍省をこれだけ脅かした後、「天皇が戦犯として裁かれるべきかどうかは、極め て高度の政策決定に属し、私が勧告することは適切ではないと思う」と外交辞令 で長い電報を締めくくった。
マッカーサーの描いた「天皇なき日本」の悪夢に満ちた絵は、彼の期待どおりの奇跡を齎した。
この電報を受け取った陸軍省は、すぐさま国務省(バーンズ長官とアチソン次官)との会議を持つ。国務省と陸軍省は、天皇には手をつけないでおくことに合意した。
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。