グラスノスチ
なぜこれほど中国が言論の自由や表現の自由を制限するのか。その背景にはやはりソ連邦の崩壊があるのでしょう。当時のゴルバチョフ大統領が何をしたのか、覚えている方もいらっしゃると思いますが、彼は様々な改革(ペレストロイカ)を行ったのと同時に、これまでほとんど外に出ることのなかった情報公開(グラスノスチ)をやってのけたのです。
ソ連崩壊の理由はもちろんそれだけではないかもしれませんが、これらが非常に大きな影響を与えたことは間違いないでしょう。この経験を中国は注意深く研究しているのです。中国のリーダーたちは、やはり相当頭がよろしゅうございますから、歴史からしっかりと学ぶわけです。ましてや自分の近くにあったあの巨大なソ連が一瞬で潰れてしまうのですから、そのショックは大きかったと思います。
ですから、現在の中国首脳部はそうならないよう全力で情報統制を行なっているのです。13億人規模の顔認証システムを運用するのですから、どれほど本気かがわかります。
自由の代償
ソ連邦が潰れたのは、情報公開に裏付けされた人々の自由を国民が享受し、それを謳歌しようとしたことに始まります。情報公開と自由が保障されたことによって、ソ連邦の共産主義、社会主義への幻想が崩れ、現実に目覚めたということでしょう。
同じようなことが今後、中国にも起こるのかどうか。歴史的に見ると、一党独裁的な国々は同じような命運を辿っているように思われますが、中国だけが例外となるのかどうかはわかりません。ただ、中国は今、米国と貿易絡みで喧嘩していますね。これも徐々に中国経済を追い詰めていくでしょう。米国の経済力は色々と問題も指摘されていますが、やはり世界一です。結果として中国の景気もそろそろ減速していくと思います。
その時に中国がどう動くかです。人権に関する様々な問題があっても、経済が良ければ人は我慢して黙っておりました。しかし経済がガラガラと崩れ始めると、とりわけ中国の中産階級さらには高所得者層は、自分たちの権利や名声を主張し始めるでしょう。
爆買い
勢いに任せた中国経済の余波が、中国人たちの爆買い行動に現れております。日本などの安い国に来て、大量に物を買うだけではなく、ヨーロッパやアメリカでもどんどんと物を買い、土地を買っております。それはバブル時代の日本のようです。
その爆買いですが私は以前、かつての日本人の行動がどれだけアメリカ人らを激昂させたかについて話したことがありますが、同じような状況が生まれております。皆さん、ご存知でしょうか。あのアメリカの超一流の不動産、例えばスタンフォードの周りやシリコンバレーなどの空き物件は、現在、中国のお金持ちがほとんど買い占めている状態なのです。
最初のうちは「うわ、中国人はお金持ちになったな」とアメリカでも話題になっていましたが、最近はもう買ってほしくないのです。住宅関係でいえば、買ってもそこに住まないからです。誰も住んでいない所は草ぼうぼう、木は伸びたい放題です。大迷惑になっております。
西鋭夫のフーヴァーレポート
言論の自由(2019年6月下旬号)-7
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。