最も偉大な世代
ピーター・ロビンソン教授による、ベン・サス上院議員へのインタビュー記事に話を戻しましょう。そこには「豊かなアメリカが徳を持ち続けるのは、まさに至難の業である。祖父母の世代である『最も偉大な世代』が大恐慌を耐えしのび、犠牲を払ってくれたから、その孫やひ孫は、祖父たちが望んだような人生を送ることができるようになった。子どもたちは平和と繁栄の時代を手にしたが、それこそが私たちをダメにしているのではないか」と疑問を呈しています。
アメリカに来た当時のことを思い出します。付き合ったお嬢さんの家に呼ばれて食事会なんかがあるわけですが、大金持ちの家でもとても質素な暮らしをしていたことに驚きました。
その子のお父さんやお母さん、そしてそのまた親たちの世代は世界恐慌を体験しているのです。1929年、ウォール街から起きた大恐慌は、アメリカをそして世界を貧困のどん底に陥れました。その時の生活が身に染みているのです。第二次大戦後、アメリカは世界の大国となりましたが、大国となってもなお、大恐慌を経験している世代の暮らしは非常に質素でした。
美徳
裕福になっても驕り高ぶらず質素な生活を貫いた世代には、生き方に対する美学がありました。それが「最も偉大な世代」と呼ばれる所以だと思います。ロビンソン教授によるインタビュー記事は、そんな世代を称えながら、現代の若い世代に警告を発しているわけです。
たとえば、私が住むスタンフォードの近くにはシリコンバレーがありますが、そこに住む20代、30代の若者は1億や2億をすぐに稼ぎ出してしまいます。そして豪華な家を建て、これ見よがしにワーワーやっております。しかしシリコンバレーが何かのショックでガシャんと壊れたら、彼らはどうなるのでしょう。ストリート・ピープルになるのではないか。彼らには何の準備も、哲学もありません。
ロビンソン教授はそんな弱々しい若者たちには「苦労することを教える」ことが大切だと指摘します。苦労することで、初めて「徳」の存在に気づくことが出来るからです。当たり前に何度も手に入ってしまう世代には、徳を感じる機会がほとんどありません。
徳
日本ではこの徳をとても大切にしてきました。しかし、学校からも、地域からも、この徳がどんどんと失われております。徳という言葉も使われなくなってきました。徳について何か話そうとすると、「おまえは明治の話をしているのか、江戸の話をしているのか」などと言われます。
徳の話をする人が減ってきているのは残念ですが、希望もあります。日本人はそれを、生活の中にすっかりと取り込んでしまっているからです。たからこそ、平和で盗人の少ない、人に迷惑をかけない日本文化ができてきたのです。
日本文化は「徳」に支えられた文化です。ですから、徳を失うこととは、日本人としての魂を失うことと同じなのです。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年4月上旬号「愛国心と教育」-5
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。