弁護士のプライド
敗戦後に行われた東京裁判において、ある一人の弁護士がA級戦犯として起訴された日本人を全力で弁護しました。その人はアメリカ軍の弁護士でした。彼はこのA級戦犯を「戦犯ではない」とし、アメリカによる原爆投下こそ非人道的行為であると指摘しながら、弁護しました。
米軍の弁護士は普通、そんなことは言いません。勝ったばかりですし、まだあちこちに戦火がくすぶっている時です。そんな時にアメリカを批判するようなことはしませんし、敵国の要人を弁護するはずもありません。しかしこの若いアメリカ人弁護士は自分のプライドをかけ、日本の戦犯を弁護しました。
私は感動しました。彼の主張はもちろん裁判官に無視されました。反論の余地はなく「その件はダメ、その件もダメ、却下、却下」の世界でした。
正義の所在
現在の日本では、どんな職業であれ倫理的責任の所在が曖昧になっているように思います。倫理という言葉も死語に近いのではないのでしょうか。弁護士であればクライアントを守る。顧客の情報を漏らさないなど。このような職業倫理は弁護士の世界だけでなく、あらゆる職業にあるものでしょう。しかし、景気低迷が続き、元気がなくなった日本においては、どれだけの人が職業倫理を実践しているのか。疑問に思うことが多々あります。
例えば日本の自動車業界です。大騒動になっております。様々な検査がなされるわけですが、その結果が改ざんされているのです。それが全部見つかってしまいました。あれだけ儲かっている自動車会社がなぜそんなことをするのでしょうか。もうプライドはないのでしょうか。
この状況は非常に危ないです。プライドを無くす企業が増えること、それは国にとっては毒のようなものです。痛手はすぐに出ないかもしれませんが、ちょろちょろと少しずつ飲まされる毒なのです。蓄積し最後に大問題に発展します。
カルロス・ゴーン
私がいまだに解せないのは、日産を見事に救ったゴーンさんについてです。お金の話ですが、あのくらいのことで100日も監獄に入れる。これはどうかしています。
私はゴーンさんを応援しているわけではありません。ゴーンさんに対するあのやり方は一体なんだったのだ、と問うているのです。正義、すなわちフェアネス(fairness)がどこにあるのかという問題です。容疑者ということだけで、世間の目はゴーン批判へと変わっていきました。大きな偏見や先入観でもって彼を見ているのです。
彼のケースは今後大問題に発展するものと思います。フランス人のプライドはズタズタでしょう。彼らはこのままで終わらないですよ。反撃に向けてすでに動き出していると思います。大手企業のお偉いさん方が犯してきた罪がいずれ暴かれるでしょう。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年3月下旬号「揺らぐ日本の人材育成」-6
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。