アヘン貿易の謎

by 西 鋭夫 November 14th, 2022

一箱の重さ

ジャーディン・マセソン100周年記念の本は、大きく分厚く、たくさんの美しい絵や写真が載っておりました。見たこともない写真もありました。その中に、インド人の奴隷が2人、箱を担いでいるものがありました。アヘンが入った箱です。

イギリスですからその重さはもちろんポンドで記してありました。1キロは2.2ポンドでしょう。書いてあったその数字を2.2で割ると72という数字が出てきました。一箱の中に入ったアヘンの量は60キロではなく、72キロだったのです。

インターネットはもとより、様々な本や論文などでも「60キロ」と書かれていました。本物を見ずに、誰が言ったのか、書いたのか分からないその重さが当たり前の事実としてずっと信じられてきたのです。そして、これまで誰も疑わなかったのです。

72キロという重さが分かったとき、私はとても嬉しかった。

 

箱は何でできていたのか

では、アヘンを持ち運ぶ箱は何で出来ていたのでしょうか。それはマンゴーの木でした。マンゴーの木の幹は直径3〜4メートルありまして、高さは20〜30メートルの高さまで成長します。インドはマンゴーの原産地です。熱帯気候で雨も多いのですぐに育ちます。マンゴーの木はあちこちに生えています。それを使っていたのです。

中に入っているアヘンはグレープ・フルーツとか、ソフトボールぐらいの大きさです。それが二列になって入れてあった。またアヘンは湿ってはいけませんので、蓋をしてアスファルトを塗って封をしました。アスファルトと言えば、私たちは道路のことしか考えていませんが、本来は自然に湧くものなのです。

しっかりと封をして、その上から皮を巻きます。そうして出来たアヘン箱は、オーピアム・クリッパー(Opium Clipper)と呼ばれた非常に速い帆船で運んでおりました。

 

探し続けることの意義

文章や公文書などの記録が残っていないときは、あちらこちらと自分の足を使って探さなければなりません。ない場合でも探し続ける。そうすると何かしら出てきます。

求めている文献や情報が図書館にあるとは限りません。常に探し求めていると、意識していないところからひょっとその情報が出てくることがあります。以前、ラクダ一頭が運ぶことができる荷物の重さを調べておりましたが、文献がほとんどなく困っておりました。そんなおり、あるテレビ番組の録画を見ておりましたら、一瞬、ラクダの荷台に関する話が出ておりました。すかさず巻き戻しをして確認しました。

分かるまで根気よく調べ続けること。これが出来ている研究者は実はなかなかおりません。インターネットで少し調べて、「はい、おしまい」の世界でしょう。そんなことだから、学生たちも「ああ、それでいいのだ」となってしまう。日本の大学はどんどんと落ちぶれていきます。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2018年11月上旬号「働き方改革と歴史」-7

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。