極東防衛
なぜアメリカはこれほどまでに日本を自分たちの陣営に引き込もうとしたのでしょうか。アメリカに依存させるような国にする必要はあったのでしょうか。そんな疑問を持つ人がいるかも知れませんが、答えは簡単です。
一つはソ連という共産主義国の存在。そして同国による原子力爆弾の開発です。アメリカにあった設計図が盗まれるという一大事件も起きました。これはアメリカとアメリカが主導する西側陣営の安全保障にとって一大事です。強大な国であるソ連に対抗する手段として、極東に強力な米軍部隊が必要になった。
もう1つは大戦中に一緒に戦った中国の存在です。中国では戦後、蔣介石と毛沢東との間で大ゲンカが起きました。蔣介石が負け、彼は台湾に逃げます。大陸に残ったのは共産党です。アメリカからすると「俺たちが助けてあげた中国が共産化だと?冗談じゃない」という感覚でしょう。しかも毛沢東という強力な指導者がいた。アメリカ国内では「中国を失ったのは誰の責任か」を問う委員会が設立され、徹底的な調査が始まりました。フーヴァー研究所におられた、私のお友達の1人はその委員会に引っかかり大使になれませんでした。
政策転換
中国の共産主義、さらにはソ連の共産主義と原爆。これらに対抗するために強い日本作りがスタートしました。占領開始の時点では、徹底な武装解除、財閥解体を行っておりましたが、真逆のことを始めたのです。
すなわち、日本を急速に育て直し、アメリカにとっての「極東の砦」にしようとしたわけです。しかし武器をチラつかせて脅してはいけません。そこでアメリカは、日本人自らが寄ってくるような仕掛けを考えました。それがソフトパワー外交です。
そんな時、朝鮮半島で戦争が始まります。日本は朝鮮半島のアメリカを支援する極東の最前線となり、武器弾薬から燃料、水、食料までを供給しました。日本の産業界が大いに復活し、朝鮮特需と呼ばれる好景気にわきました。
外交感覚を失った日本
アメリカに嫁いだ日本は、本来の「外交」の意味を忘れてしまっております。独自の外交を展開できないのです。日本には素晴らしいソフト・パワー資源があるにもかかわらず、宝の持ち腐れ状態が続いております。
アメリカに住んでいると、もう肌感覚でわかりますが、アメリカの若者は、日本の文明・文化に惚れ抜いております。侍だけではありません。アニメのコスプレも流行っております。アメリカの有名都市でコスプレの全国大会が開かれるわけです。
ラーメンはどうでしょう。アメリカの大学でカップヌードルがなかったら、皆さんもう暴動を起こしていますよ。ハイテク産業も日本の技術に頼りっきりです。しかし、日本人は馬鹿正直というか、礼儀が正しいのかどうかわかりませんが、自分たちのハンコを押していません。専売特許になるのに他国に盗まれてばかりです。それらを外交に活用するという発想もほとんどありません。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2018年10月下旬号「米中文化戦争」-5
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。