資本主義との共存
鄧小平氏による改革開放路線を引き継ぎながら、政治体制上は共産党による一党支配を続ける。これは持続的なのでしょうか。
現在、大小様々なギャップや亀裂が生じているところだと思います。中国共産党という一枚岩に亀裂が入ると、修復はおそらく非常に難しい。ソ連がロシアになったのもそれです。ソ連の時は、その直前までアフガン戦争を戦い続け、お金がなくなりました。そこで少しだけ資本主義を導入しましたが、その途端に崩壊が始まったのです。
資本主義的な経済発展の仕組みを導入すると、人々はお金だけではなく、権力を求めます。これはどうしようもないのです。それを上から押さえようとすると革命が起きます。帝政ロシアを倒したロシア革命も然り、さらにはフランス革命もそうでしょう。中国の習近平国家主席もその歴史については熟知しているでしょうから、過度に資本主義経済を発展させることはしない。
ニクソン・ショック
貧しかった中国が一気にお金持ちになったのは、今から40年ほど前のある出来事がきっかけでした。米国のニクソン政権の時です。
「ニクソン・ショック」と呼ばれるその出来事は、ニクソン大統領による1972年の電撃的な中国訪問を指します。ほぼ同じ時期に「ドル・ショック」もありましたが、今お話ししているのは政治・外交的ショックの方です。米国の現役大統領による訪中は「毛沢東の中国こそが本物の中国政府である」ことを米国が認めた瞬間でした。これが1979年の米中国交正常化へとつながっていきます。アジアにおける米国の同盟国は大きな衝撃を受けました。
米国との関係改善を実現するきっかけを得た中国は、その後、どんどんと発展していきます。米国もそれを後押ししましたし、中国のやり方にほとんど口を挟みませんでした。2000年代になり、アメリカでは「やり過ぎじゃないか」との後悔が出てきましたが、民主党政権の弱い大統領は中国に何も言えず、中国はやりたい放題を続けました。
産業の流出
そんな中、強く恐ろしいトランプ大統領が出てきたわけです。トランプ大統領はすぐに動きました。中国からの製品に対して高い関税をかけたのです。関税がかけられると、アメリカでは売れなくなります。
そうすると、人件費が安いからと中国に投資していた世界各国の企業は、こりゃたまらんと言って、中国から引き上げ、さらに人件費の安い東南アジアに拠点を移していきます。関税がかけられていないからです。
このことは中国経済にとって何を意味するのか。それは産業の空洞化です。製造業といった中国の基幹産業の空洞化が始まるのです。これは大騒動です。中国は外部からの投資と製造業で稼いでいるからです。それがなくなると今の習近平体制はガラガラと崩れます。一帯一路構想どころの話ではなくなるでしょう。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2018年10月上旬号「米中衝突と日本」-2
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。