東京裁判で裁かれていないこと

by 西 鋭夫 August 24th, 2022

戦争責任

東京裁判で「終身禁固刑」の判決を受けた賀屋興宣(かやおきのり)という人物がおります。近衛内閣と東條内閣にて大蔵大臣を担った人です。

賀屋は「東京裁判には、道義的にも、法律的にも議論の余地がある。外国が判断したものではなく、戦争を実行した責任者と、日本人自らが判断すべきである。この一番重要なことが、ほとんどなされなかった。日本国民として大変残念である」と述べております。



全くの同感です。私はそこで禊という言葉を用い、「禊ができていない」と言ってきました。すなわち、私たちは清らかな水を浴びながら、歴史の解明をやってこなかったのです。

「なぜ、ああいうことになったのか」という考察が行われないままに、マッカーサーが出てきてA級、B級、C級戦犯などと、勝手にやってしまった。そしてA級戦犯の7、8名が絞首刑となり、私たちは「終わった」と錯覚しました。

 

検証は始まってもいない

違うでしょう。何も終わってはいません。私たちの肌の奥底で、禊が全く出来ていないのです。そんな中で、あの戦争がなんだったのか誰も分からないままに、70年間暮らし続けているのです。

それゆえ、近隣諸国に戦争のことで突っ込まれると、私たちはビビっているのか、また傷口から血がタラタラと流れてきて、「お金を出せば解決するのではないか」、「謝罪すれば解決するのではないか」と、70年間、同じことを考えてきました。

A級戦犯への罰が執行出来たので、もうおしまいではないのです。裁判にて裁かれていないことの方が、実はとても重要です。そこに気づいていない。

 

歴史研究の意義

A級戦犯はアメリカが勝手に名付けたもので、それはいわば「アメリカの復讐劇」そのものだったといえるでしょう。数名を殺して、いわゆるご破算にするというやり方です。その後は「日本の皆さん、アメリカの言う通りにしなさいね」と諭しました。

この筋書きに付き合う必要はありません。未だに明らかになっていない事物に対して、どんどんと調査研究を進めて欲しい。例えば大本営ですが、言葉では知っていてもそれが何なのか分かりません。これを「生き物」として、当時の状況や歴史的な文脈に位置付けて、考え、検証していく。そんな姿勢が求められております。

最近はいろいろな本が出ていて、あの戦争は正当な戦争だったとか言っていますけれど、そもそも善悪の話ではありません。学問的にきちんと追求すべき、真実に関わる問題なのです。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
大東亜戦争(2018年8月下旬号)-5

 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。